研究概要 |
今年度は,超音速分子線発生装置の作成を目標とした。しかしながら、他予算を利用して昨年度発注したEven-Lavieバルブの納品が遅れ、年度末になりようやく超音速分子線発生装置が完成した。そのため、本年度は、室温における1,3-ブタジエンの緩和ダイナミクスの観測に挑戦した。1,3-ブタジエンは最小の二重結合共役系であり、生体系において光アンテナを構成するより長い共役系でのエネルギー伝達を調べるためのモデル分子である。1,3-ブタジエンのS1、S2状態は近接した励起エネルギーをもつが、S1は一光子遷移禁制である。そのため、S2に励起された後、50fs以下の寿命で円錐交差を経てS1、更にはS0へ緩和すると言われている。しかし、光励起後、分子は解離することも知られており、S0状態へ戻るのか、そのまま解離するのかどうかは、よく知られていなかった。チタンサファイアレーザーの19次高調波を遅延時間補償分光器により切り出し、プローブ光として用いた。400 nm光の二光子吸収によりS1状態へ励起した。二つのパルス間の遅延時間を変えながら光電子スペクトルを計測した。その結果、200fs後には、一度、基底状態へ戻ることが初めて明らかになった。更に詳しくみると、被占有最高分子軌道のスペクトル内でも、束縛エネルギーが低いと20fsで戻ることが分かった。これは、S1からの内部転換に伴い、高い振動エネルギー準位にまず緩和していることを示している。深い準位が100 fsで戻ることから、基底状態での熱平衡化に80fs程度かかることがわかる。これまで、イオン化による研究は行われていたが、イオン化では緩和途中の電子状態が分からない。単一次数高調波と光電子分光法の組み合わせにより電子状態を観測できるようになったことは、画期的である。
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