研究課題/領域番号 |
23340119
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
平野 琢也 学習院大学, 理学部, 教授 (00251330)
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キーワード | 量子計測 / スクイーズド光 / エンタングルメント / パラメトリック増幅 / 周期分極反転光導波路 / パルス光 |
研究概要 |
本研究の目的は,研究代表者がこれまでに培ってきたパルス光エンタングルメントや無雑音増幅の研究成果を活用して,量子測定の実証実験を行うことである.本研究では,量子エンタングルメントを利用することで,エンタングルペアの片方に対する測定後のオブザーバブルと,ペアのもう片方のオブザーバブルを比較し,量子測定の定量的な評価を実現することが最終的な目標である. 初年度は,質の高いエンタングルメントの生成を実現することを目的に研究を行った.申請段階では,新たにレーザーを購入する予定であったが,交付予算の範囲内で高額なレーザーを購入することは最適な研究計画ではないと判断し,既存のレーザーを用いて研究を進めることにした.しかし,既存レーザーが故障したために修理に多大の時間を要することとなり,当初の計画を変更し,予算を繰り越す必要が生じた. 実験の手順としては,まず,光源となるパルスレーザーの第2次高調波を発生し,この第2高調波を励起光としてパラメトリック増幅を行い,スクイーズド光を発生した.エンタングルメントは,スクイーズド光を2つ発生し,これら2つの位相を直交させ,ビームスプリッタで重ね合わせることにより生成できる. 通信波長帯パルスレーザーを光源とする実験においては,従来より短尺のPPLN導波路を用いることにより,強度を2倍程度改善することに成功した.パラメトリック増幅の励起光の強度が増加することにより,スクイージングやエンタングルメントの質を改善することが可能となる. スクイーズド光の発生については,ピコ秒パルスを用いた実験において,LO光パルスをパラメトリック増幅し,時間幅を短くするパルス整形の研究を行った.その結果,-5dBのスクイージングを実現することができた(Opt.Lett.36, (2011) 4653).これは導波路を用いるスクイージングで最も良い結果である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度は,質の高いパルス光エンタングルメントを生成するための研究を進め,第2高調波出力の向上やスクイージングの改善を実現することができた.しかし,エンタングルメントの改善までは研究を進めることができなかったので,自己点検による評価はやや遅れているとした. 質の高いパルス光エンタングルメントは,エンタングルメントの度合いが優れたパルス光ペアであり,量子測定への応用においては,いわゆるEPR基準を満たすことが重要となる.EPR基準は,2地点間の測定の相関が強いため,一方の測定結果で条件づけされる他方の測定結果の予測値の不確定さが,不確定性関係よりも小さくなる基準である(Rev. Mod. Phys. 81 (2009) 1727).2つの系の状態を個々の状態の直積では表せないとする非分離性基準よりも実現することが難しい.我々の知る限り,まだパルス光では実現されていないが,EPR基準を満たすためには,3dBを上回るスクイージングを実現することが目安となり,初年度終了時において,本研究はそのほんの一歩手前にいる状況である. 初年度の成果のうち,まず,第2高調波のパワーの改善は,PPLN光導波路を用いた第2高調波発生の従来の問題点を解消することにより,達成したものである.これは,パルス光の高いピークパワーにより,光導波路ではシングルパスであっても,内部変換効率がほぼ1に近づく領域となり,むしろ高い変換効率により,第2高調波パルスの時間波形が乱れるという問題である.そこで,既存のPPLN光導波路を切断し,端面を再研磨,再蒸着することにより,長さの短い光導波路を用意した.そして,パワー当たりの変換効率を下げ,その代り入力パワーを上げることで,第2高調波出力を2倍以上に改善することができた(5dBのスクイージングについては概要に引用した文献を参照).
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今後の研究の推進方策 |
今後は,パルス光エンタングルメントの改善と,量子非破壊測定の実験研究を進め,これらを組み合わせることで量子測定の定量的評価を実現する.その際,複数の実験研究を同時に進行し,これらの研究で得られる知見を相互活用することにより,研究の進行を早めるように努める.具体的には,近赤外のピコ秒パルス光源を用いる研究により,パルス光エンタングルメントの改善を集中的に行うととともに,通信波長帯のパルス光源を用いる実験により量子非破壊測定の実験研究を進める. 近赤外のピコ秒パルス光源を用いてエンタングルメントの改善について研究を進める理由は,本光源を用いる実験系を用いて,これまでで最も良いスクイージングを実現することができているからである.この実験系では,スクイーズド光,エンタングル光と,LO光の空間的,時間的な重ね合わせの改善について,PBSと波長板を用いるマッハチェンダー干渉計などの手法についてノウハウを積み重ねており,EPR基準を満たすエンタングルメントの改善を進める系として適していると考えられる.一方,通信波長帯はより波長が長いため,導波路構造の不完全さなどの影響がより小さく,エンタングルメントの向上には有利であると考えられるほか,これまでにタイプ2の位相整合の周期分極反転非線形光学結晶を使った量子非破壊測定の準備実験も既に行っており,量子非破壊測定の実験研究を進める系として適していると考えられる.また,本実験にとって重要なPPLN導波路については,物質材料機構,早稲田大学の専門家と共同研究を進め,通信波長帯のスクイージングの改善を目指す.最終年度には,エンタングルメント生成についてのノウハウを通信波長帯の実験に適用し,本研究の目的の達成を目指す.
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