研究課題/領域番号 |
23340121
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
谷口 貴志 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60293669)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 脂質二重膜 / 流体膜 / 相分離 |
研究概要 |
H24年度は昨年度に引き続き、曲げ弾性率の局所組成依存性の効果を取り入れて、温度変化による脂質の膜上相分離と膜変形の数値計算を進めた。膜形状と膜上相分離の分布は、この曲げ弾性の組成依存性を通して非常に強く結合することが分かった。また相分離の時間スケールを決める輸送係数と変形の時間スケールを決める膜の易動度の大小が平衡へ向かう動力学に影響を及ぼし系が容易に準安定状態へ落ち込むことが分かった。 また、膜外の流体力学効果や膜のトポロジー変化を考慮可能な数値計算手法の開発も進めた。そこでは結晶成長での界面の記述に有効な方法であるフェーズ・フィールド(PH)法を膜の動力学の記述に応用し、また膜内外の流体力学方程式を解くために格子ボルツマン法を用いた。PH法を応用しているため、まだ行ってはいないがトポロジー変化のダイナミクスにも適応可能である。このプログラムを用いて、流動下でのベシクルのダイナミクスを計算し、以前の論文で報告されている細管中で球形ベシクルがパラシュート形へ変形することや壁面近傍のベシクルが中心方向へ向かうリフトアップ現象を定性的に捉えていることを確認し、モデルとプログラムの妥当性を検証した。 本研究課題申請後の新たな展開として、同大学内で生体細胞を研究している実験研究者との共同研究も進めている。今年度も細胞内外の情報伝達のプラットフォームと考えられているラフトのダイナミクスを記述するモデル方程式の構築とシミュレーションを行った。その結果、(a)リガンドの刺激によってGPI (glycosyl-phosphatidyl-inositol)受容体分子の周囲にある種類の脂質が集りメソスケールで動的なドメインが形成されること、(b) それがGPI粒子間に引力的な相互作用を引き起こすこと、(c) 上下膜間の相互作用でそれが更に強められることが分かってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
流体力学効果やトポロジー変化を扱えるモデルの開発として粒子法によるモデリングを計画していたが、フェーズ・フィールド法をベースとした方法の方が発展性があると判断し、フェーズ・フィールド法をベースにしたモデリングも行った。この方法を用いて当初計画していたトポロジー変化、流体力学効果を考慮できるモデルとプログラムの開発に成功した。この方法を用いて流体力学効果が膜の形へ及ぼす影響については当初の予定通り進められているが、トポロジー変化を伴う膜の変形については、まだ行えておらず。この点での研究の進展を進める必要がある。脂質二重膜の「上下の膜の各々に対する内部自由度」と「上下の膜間の相互作用」を考慮することで上下膜の非対称性を正確に表せる理論モデルの構築を進めるという点に関しては、実験家の楠見氏の共同研究を通して、ラフトのダイナミクスを記述するモデル方程式の構築において順調に進めている。
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今後の研究の推進方策 |
申請書で掲げた研究目的と研究計画に大きな変更はないが、用いる数値計算法に関して少し変更を行った。当初、流体力学効果やトポロジー変化を扱えるモデルの開発として粒子法によるモデリングを計画していたが、研究を進めて行く中で、フェーズ・フィールド法をベースとした方法でこれらの効果が扱えることが分かり、またこの方が発展性があると判断しフェーズ・フィールド法をベースにしたモデリングを進めて一定の成果を得た。この方法を用いた研究を今後も推進する予定である。流体力学効果については研究が進んでいる一方、トポロジー変化を伴うベシクルのダイナミクスに関しては遅れているので、その点に力を入れる必要がある。その他、高分子の効果、曲げ弾性係数、ガウス曲げ弾性の組成依存性の効果の研究についても、まだ十分ではないので更にこの方面にも力を入れて研究を進めて行く予定である。これらに加えて、同大学の細胞膜の実験研究者(iCeMS:楠見教授)と細胞内外の情報伝達を担っているラフト形成とGPI粒子のダイナミクスについても、複合脂質膜の内部自由度とそのダイナミクスという観点で研究を進めて行く予定である。また、今年度は論文という形で成果を発表することにも力を注ぐ計画である。
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