研究概要 |
H25年度は,複合脂質が示す多様な現象への応用展開を推し進めた. 1つ目の課題として, 昨年度に引き続き, 曲げ弾性率と自発曲率の局所組成依存性の効果を取り入れ,温度変化による脂質の膜上相分離と膜変形の大規模な数値計算を進めた. 熱搖動の効果を取り入れた計算から,膜面上での核生成や円形ドメインが変形しながら拡散する様子を捉えることができた. 更に円形状ドメインの成長の機構の1つであるオストワルド成長, そしてLifshitz-Slyozov機構が熱搖動の効果によって抑制され,ドメイン成長の指数が小さくなることが分かった. 2つ目の課題として, 刺激を受けたGPI (glycosyl-phosphatidyl-inositol)アンカー脂質に誘起されるラフトの形成ダイナミクスの数値計算を引き続き行った. GPI間に働く引力相互作用を距離の関数として求め、GPIクラスター形成と微小ドメインのサイズの関係を調べた. 3つ目として, ベシクル内外の溶液の流体力学効果や膜のトポロジー変化を考慮可能な数値計算手法(Phase Field法を用いた弾性体や弾性膜の記述)の開発も引き続き進めた. ベシクルの周囲に生じる高分子の枯渇効果は生体系においても働く. よって, べシクルの周囲に存在する物質場(例えば高分子の濃度場)により生ずる動的な枯渇効果を正確に扱えるようにすることが必要である. このため,高分子溶液中の固体粒子の運動を方法の研究も同時に進めた. その結果,外部から印加された流れの下での枯渇領域の動的な変化が弾性体の流体力学的抵抗力に大きな影響を及ぼすことが分かった. 4つ目の課題として, 脂質二重膜の2つの膜間に脂質密度の差がある脂質膜に対し, 密度の非対称性が膜の流動-ゲル相転移に及ぼす影響を理論的に調べた. その結果,二重膜の各膜の間で相転移温度のずれが生じることを明らかにした.
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