研究概要 |
多結晶体の非弾性にあたえる温度T・粒径d・メルト量p・化学組成Cの影響は、これらがマックスウエル周波数fm(=弾性定数/粘性)に与える影響としてとらえることができる。つまり、非弾性を表す減衰スペクトルQ-1(f)は、周波数fをfmで割った規格化周波数f/fmのみの関数として表すことができる;Q-1(f,T,d,p,C)=Q-1(f/fm)。しかし、このスケーリング則の成立が確認できているのは,規格化周波数f/fmが10の4乗以下の範囲のみであり,地震波の帯域に相当する10の6乗から9乗の範囲でも成り立つかどうかが分からない。本研究の目的は、岩石のアナログ物質を用いてより高い規格化周波数における非弾性のデータを取得し、マックスウエル周波数を用いたスケーリング則の適用限界を調べることである。 まず、ヤング率と減衰を広帯域かつ高精度で測定できる強制振動型の非弾性実験装置を作製した.作製した装置を用いて、多結晶体試料の減衰スペクトルを、温度、粒径、化学組成を系統的に変えて測定した.その結果、規格化周波数が10^4以上の帯域(地震波帯域を含む)での非弾性の振る舞いは、マックスウエル周波数fmによる単純なスケーリング則のみではとらえきれないことが分かった。特に、不純物による多結晶体の非弾性緩和の促進が、マックスウエルスケーリング則からの予想よりも(つまり、粘性への影響から予想されるよりも)はるかに大きいことが分かった.不純物には、多結晶体の融点を大きく低下させる働きがあるため、この実験結果は、多結晶体がその融点に近づいたことで非弾性緩和が促進されたとも解釈できる。上部マントルでは岩石が融点に近い温度にあり,このような場所での地震波速度構造の解釈には、融点近傍での多結晶体の非弾性特性を理解することが重要になると考えられる。
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