今後の研究の推進方策 |
1.東北地方太平洋沖巨大地震が起きてしまったので、23年度計画に含めてあった「深層地下水変動観測システム」の若干の充実は見送ったが、巨大地震の後数年間は大地震が発生し易いので上記システムでの観測は継続すべきと考える。しかし、当初計画のままでは前兆的地下水変動を捉えることが困難である。 2.そこで試みたのが9の「研究実績の概要」で述べたいわき地震(M7)の余震に伴う地下水位変動の臨時観測であった。その結果、地下水位観測は体積歪分解能が3×10^<-10>程度の歪計での観測とほぼ同じことで、検出限界マグニチュードMcは震源距離r(単位はkm)の関数としてMc=2.48logr+1.00で近似できた。また、水位変化はM・Mcと定義した規格化マグニチュードM^*に比例する。他方、Shibazaki & Matsu'ura(1998,Geophys.J.Int.,132)によれば、加速フェーズにおける震源核のサイズは地震断層の長さの0.04倍程度であるという。すなわち、震源核で解放される地震モーメントをマグニチュードに換算すれば、それは本震のマグニチュードより約2.8小さく、M^*>2.8なら前兆的水位変動が観測されることになる。このことから、M7程度以上の内陸浅発地震直後の最大余震に伴う水位変動を、余震域内程度の震源距離で迅速に臨時観測するという戦略が効果的であろう。 3.東北地方太平洋沖巨大地震後、地震活動は福島県・茨城県沖に移動しているので、23年末に茨城県高萩市の自憤井でラドン・炭酸ガス濃度の観測を開始した。24年度も地震活動域の移動に対応した観測(とくに静かな深層孔井での水位観測)を行う必要がある。 4.東北地方太平洋沖巨大地震は地震発生過程の複雑さを知らしめたが、Hori & Miyazaki(2011,EPS,63)によるhierarchical asperity modelが示唆的だ。彼らによれば、千年程度の間隔でM9の地震が発生する領域内で、M7~8の地震が数十年毎に発生するようにするためには、M9とM7・8のアスペリティーにそれぞれ数mと数10cmのstate evolution length dcを与え、震源核の臨界サイズとしてそれぞれM9の震源域と同程度、およびM7~8の震源域より小さく与えればよいという。しかし、数mのdcを実現する物質や条件とはどのようなものであろうか。多分、すべり帯内での構造形成が関わっていると思えるが、これを考慮した摩擦すべり実験が必要である。
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