研究課題
地球は唯一生命が生息し、高等生物が存在する天体である。そこで、高等生命につながる後生動物出現は地球・生命進化史を研究する上で最も重要な問題であるが、その原因は未だ解明されていない。本研究の目的は、掘削試料の多元素・多同位体分析から古環境を解読し、多細胞動物出現とその後に続く急激な多様化(カンブリア大爆発)の原因を解明することである。特に、本研究では申請者が提唱している多細胞動物出現とカンブリア大爆発は対照的な環境下で起きたとする多段階進化モデルを実証し、多細胞動物出現とそれに続くカンブリア大爆発の原因を究明する。今年度は南中国三峡地域南部の長陽地域と十二花村地域で掘削を行い、それぞれ、クリオジェニアン紀末期とカンブリア紀初期-中期境界の試料を採取した。また、これまでに採取した大陸棚内のバンクや大陸斜面堆積物の掘削試料のC,O,N同位体分析、三峡地域のCa同位体や硫化物局所Fe同位体分析と雲南のカンブリア紀Tommotian~Atdabanian~Botomian stagesの砂岩・泥岩層に挟在する炭酸塩岩の炭素と酸素同位体分析を行なった。バンク堆積物では、初めてooidsなどの浅海で堆積した証拠を発見するとともに、その炭素同位体比変動は同様に浅海で堆積したと考えられる三峡のそれと大きく異なることが分かった。また、先行研究では当時の海洋は酸素濃度や溶存有機炭素量に関して成層しており、深海は浅海とは異なり常に低い炭素同位体比を持つことが提唱された。しかし、大陸斜面堆積物の掘削試料の炭素同位体比変動は三峡地域の浅海堆積物の炭素同位体比変動とは異なるが、先行研究で示唆された一貫して低い同位体比であると言う予測とも異なり、比較的高い値になることが分かった。以上の結果は、大陸からのリンや硫酸塩などの栄養塩の供給量と生物消費のバランスが大陸からの距離と関連して変化していることを示す。今後、調査地域を拡げ、かつ分析する元素を増やし、後生動物出現と多様化時の大陸棚全域の表層環境を生物活動と関連させ解読することにより、生命進化の原動力の解明に繋げる。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度は、当初の予定通り南中国の長陽地域と十二花村地域で掘削を行い、クリオジェニアン紀とカンブリア紀初期-中期境界の堆積物を極めて良好に採取することができた。これらの試料は、当初予測よりも良好で、多元素・多同位体解析を行なうのに適し、今後の研究の進展に大きな役割を果たすであろう。また、これまでに採取した3カ所の掘削試料の炭素・酸素同位体を500試料以上も分析した。その結果は、先行研究の予測を大きく覆すもので、後生動物出現・多様化期の表層環境解読に重要な貢献をすると思われる。
今年度採取した長陽地域と十二花村地域の掘削試料の炭素・酸素同位体分析を行ない、クリオジェニアン紀とカンブリア紀初期-中期境界の表層環境解読を進める。また、バンクや大陸斜面の炭素同位体比が先行研究の予測と異なる理由を解明し、さらには当時の海洋の酸素濃度や栄養塩濃度分布を解明するために、網羅的にこれまでに採取した掘削試料中の炭酸塩鉱物の希土類元素やリン濃度の局所分析を行なう。今年度も中国・西北大学との共同研究を推進し、表層環境解読に加え、化石研究つまり生物進化解読研究へと繋げる予定である。
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http://ea.c.u-tokyo.ac.jp/earth/Members/komiya.html