研究課題
本年度は,富士火山宝永噴火(西暦1707年)の試料の採取を実施した.試料は層位に基づいて4種採取し,噴火の時間変化に対応した地球化学的指標の変動を解析する.現在,採取試料の岩石学的記載を完了し,全岩を用いた地球化学的解析を開始している.データーの蓄積はほぼ完了したため,並行してその解釈と論文へのとりまとめを開始した.また,U-Th-Ra放射年代測定法の技術的応用として,酸による試料の段階的リーチングを用いた化学的相分離と精密なU-Th-Ra放射年代測定を組み合わせる手法を確立した.本手法をグアテマラの火山に適用した結果,U-Th-Ra法では従来困難であった噴火年代(~10ka)を決定することに成功した.このことはK-Ar年代測定法を用いても決定が困難であった約1万年前前後の噴火年代を決定できることを示しており,防災など社会的な観点からも重要な若い火山の噴火史を明らかにするうえでも極めて重要な進展であった.なお本研究結果は現在投稿中である.さらに玄武岩質火山である富士火山との対比を行うため,中国地方三瓶火山の試料採取(合計22試料)を行い,解析に着手した.現在岩石学的記載ならびに微量元素の定量分析が完了しており,引き続き,総合的同位体解析とU-Th-Ra放射年代測定ならびにK-Ar法による年代測定を行っている.三瓶火山の活動期間は約10万年前~3600年前と推定されているが,各噴火の活動時期は従来の年代測定法の限界によっていまだ明白ではない.本年度開発した新しいU-Th-Ra放射年代測定法によってそれを決定することは極めて重要である.
2: おおむね順調に進展している
分析において新たなU-Th-Ra放射年代測定法が確立するなど,技術的な研究成果は既に当初目的を達成し,その次の段階に進んでいる.天然試料の解析に関しても,富士火山については完了し,さらに三瓶火山というより分化した火山試料の採取を行い,分析に着手できている点から順調に進展している.U-Th-Ra放射年代測定法の分析支援を行っていた,スーパーテクニシャン,Takele Akalu Chekole博士が退職したため,解析の効率がやや落ちた点は残念である.現在は分析手法の効率を進めることに加え,次年度以降の研究分担者の増員でもって研究を進展させるべく計画を推進している.
次年度は,計画の最終年度であり,得られた研究成果を論文に取りまとめ公表することを最終的なゴールとする.富士火山ならびに三瓶火山については追加のデータを出す必要があるが,研究分担者として,田中亮吏博士ならびに小林桂博士を加えることで,より効率的なデータの蓄積と,解釈を行う体制を構築する.
すべて 2012 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 備考 (1件)
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http://www.misasa.okayama-u.ac.jp/