研究課題
マリアナ弧のNW Rota-1火山で、一つの火山に二つの初生玄武岩マグマを見いだした。これは、一つの火山が一つの玄武岩マグマの分化によって生じるというこれまでのパラダイムを塗り替えるものである。この成果はJournal of Petrologyに出版された(Tamura et al.,2011)。また、2011年5月30日の朝日新聞の科学欄に掲載された。この成果の普遍性を検証し、さらに発展させるため、マリアナ弧火山フロントのパガン火山の未分化玄武岩の分析・解析を進めた。初生マグマの多様性の解析を可能とするには、未分化玄武岩溶岩が必要である。一方、海面上のパガン島には未分化玄武岩溶岩は噴出していない。しかし、我々はパガン火山の海底下の火山斜面(水深1500-2000m)を無人探査機で調査し、貴重な未分化玄武岩溶岩を採取した。さらに、その解析結果は驚くべきものであった。1)パガン火山の初生マグマは少なくとも二種以上存在する。2)異なる初生マグマは数百メートル離れた距離でほぼ同時期に噴出している。つまり、地下のマントルにおいて、近接した場所において異なる初生マグマが発生したことになる。島弧のマントルでどのようにしてマグマが生成しているのか。我々はすでに玄武岩マグマの生成に関してほとんど理解していると考えてきた。しかし、この事実は、我々に島弧玄武岩マグマの成因に関しての再考を促している。さらに、興味深いことは、火山フロントから40km背弧側にあるNW Rota-1の二つの初生マグマ間の違い(COBとPOB(Tamura et al,2011))と火山フロントのパガンの二つの初生マグマ間の違いは同等ではない。つまり、火山フロント直下のマントルと、背弧側マントルにおいては、マグマ生成に関して、異なることが生じている。現在、新しい仮説を準備してパガンの成果をまとめている。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画ではNW Rota-1火山で起こっていることは、他の火山でも起こっているはずだ、と考えて分析解析を進めてきた。しかし、火山フロントのパガン火山からは予想外の結果が出てきた。この結果は、火山フロントと背弧火山のマグマの成因に対して、従来考えられているより深く、さらに斬新な考察が必要であること、を示唆している。この予想外の結果、およびそれらから導き出される新しい結論に大変エキサイトしている。現在論文を準備中である。全体的にみると、マリアナ弧の他の火山の解析を含め、順調に進展している。
海洋研究開発機構の平成24年度研究船利用公募による調査は、平成24年の8・9月に予定されている。アナタハン火山周辺海域の海底調査と試料採取を行う予定である。また、昨年度末にマリアナ弧のAlamagan火山においてハイパードルフィンにより採取された溶岩の分析と解析をおこなう。さらに、これまで採取され分析されたデータ(Zealandia Bank,East Diamante,Tracey,Paganなど)のとりまとめと議論をおこなう。特に、Paganの未分化な玄武岩マグマの成因に関しては新しい仮説を提示し、学会等で発表するほか本年度中に印刷公表するよう努めたい。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (7件) 備考 (1件)
地学雑誌
巻: vol. 120 ページ: 567-594
Journal of Petrology
巻: 52 ページ: 1143-1183
Doi:10.1093/petrology/egr022
http://www.jamstec.go.jp/ifree/j/members/info/2-1-001_tamura.htm