研究課題/領域番号 |
23340166
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研究機関 | 独立行政法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
田村 芳彦 独立行政法人海洋研究開発機構, 地球内部ダイナミクス領域, チームリーダー (40293336)
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研究分担者 |
NICHOLS Alexande 独立行政法人海洋研究開発機構, 地球内部ダイナミクス領域, 研究員 (00470120)
木村 純一 独立行政法人海洋研究開発機構, 地球内部ダイナミクス領域, チームリーダー (30241730)
宿野 浩司 独立行政法人海洋研究開発機構, 地球内部ダイナミクス領域, 技術研究主任 (50359204)
石塚 治 独立行政法人産業技術総合研究所, 地質情報研究部門, 主任研究員 (90356444)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 沈み込み帯 / マグマ成因 / 未分化玄武岩 / マリアナ弧 / マントルウエッジ / ミッション・イミッシブル |
研究概要 |
パガンはマリアナ弧最大の火山の一つであり,その山頂部はパガン島を形成しているが,山腹斜面は水深3000mまで続く。我々はパガン火山の北東海底部を調査し,水深2000-1500mにおいて新鮮な枕状溶岩を採取した。それらは10-11 wt % MgOをもち、これまでマリアナで採取された最も未分化な玄武岩溶岩である。 これらは化学組成から二種類の溶岩(COB1とCOB2)に分けることができた。この二種類の本源マグマは,ほぼ同時期に,近接した地点(<500m)で噴出している。よってこの違いは地下のマントル物質の不均質に由来するとは考えられない。一方,COB1とCOB2溶岩の違いは,マリアナに沈み込んでいる太平洋プレートに由来することがわかってきた。 沈み込むプレートは島弧の下で高温高圧状態になる。このようなプレートからの脱水及びプレート表層が融解することにより,「水に富んだ成分」と「堆積物メルトの成分」がマントルウエッジに付加される。従来は,「水と堆積物メルト成分が混合したもの」がマントルウエッジに付加してマグマを生じると考えられてきた。ところが,COB1は「水に富んだ成分」を多く含む一方,COB2は「堆積物メルトの成分」に富んでいる。 COB1とCOB2マグマが共存していることは,これらを生じた2種の沈み込み成分(水と堆積物メルト)も共存し,別々にマントルウエッジに付加されて別々のマグマを同時期に発生したことになる。つまり沈み込むプレートからマントルに付加される成分は不混和(イミッシブル)であることを示している。未分化な溶岩を解析することにより,火山の下深さ100㎞に存在するプレートからの寄与が明らかになってきた。この新しい沈み込み帯のマグマ発生に関する仮説を「ミッション・イミッシブル」と呼び、二つの国際学会で招待講演をおこなった。論文はJ.Petrologyに投稿・査読中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
この研究のモチベーションとなったのは、マリアナ弧のNW Rota-1火山で、一つの火山に二つの初生玄武岩マグマを見いだしたことである(Tamura et al., 2011)。これは、一つの火山が一つの玄武岩マグマの分化によって生じる、というこれまでのパラダイムを塗り替えるものであった。この事実を伊豆小笠原マリアナ島弧・沈み込み帯の広範囲の火山において検証する、というのが本研究の目的であった。具体的にはマリアナ弧の火山フロント最大の火山の一つであるパガンに噴出しているマグマを検証した。その結果は、我々の予想を越えていた。「パガン火山は一つの玄武岩初生マグマから導かれたのか」、「パガン玄武岩初生マグマはNW Rota-1のように二つ存在するのか」、または「パガン初生マグマには二つ以上の多様性が存在するのか」。最初の質問の答えはNoであり、あと二つの質問の答えはYesであるが、パガンとNW Rota-1の違いも明らかになってきたのである。パガンはマリアナの火山フロントに位置するが、NW Rota-1は火山フロントより40㎞背弧側の火山である。よって、これら二つの火山直下の沈み込むプレートの深さはそれぞれ100kmと200kmという大きな違いがある。パガン火山では沈み込むプレートからの寄与は,上記のようにイミッシブルであり、それが2種のマグマCOB1とCOB2の生成に繋がったと考えられる。一方、NW Rota-1直下のプレートは深さ200㎞にあるため、プレートからの寄与は超臨界流体の一相であり、イミッシブルではない。パガンとNW Rota-1の違いはこれを明瞭に示している。これは高圧実験による成果Kawamoto et al. (2012) Mibe et al. (2011)と整合的である。
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今後の研究の推進方策 |
マリアナ島弧の火山フロントの調査研究を進めている。昨年度は海洋調査船なつしま-無人探査機ハイパードルフィンをもちいて、アナタハン周辺海域の調査をおこなった。今年度もアナタハンとさらにアグリガン火山の調査を行い、ミッション・イミッシブル仮説の検証を行いたいと考える。アグリガンはパガンに次ぐマリアナ第二の巨大火山である。火山体の体積は1640 km3である(Bloomer et al., 1989)。さらに、マリアナ弧の火山の中では、従来、端成分的な火山だと考えられてきた。つまり、Elliott et al. (1997)が示すように、アグリガンの溶岩を、マリアナ弧の他の火山の溶岩と比較すると、Th/Nb比が高く、143Nd/144Nd同位体比が低い。つまり、沈み込むプレートからの寄与のうち、堆積物成分が最も大きい火山であると考えられてきた。しかし、我々のミッション・イミッシブル仮説が正しいとすると、アグリガンには、まだ発見されていない、もう一種のマグマが同時に存在しているはずである。そのマグマは堆積物成分に乏しく、水に富んでいると予想される。アグリガン火山の海底の火山斜面を調査し、アグリガン島には出現しない、未分化の玄武岩溶岩を採取し、ミッション・イミッシブル仮説の検証に努めたい。一方、マリアナ島弧の中でも、アナタハン火山は、よりシリカに富んだマグマを爆発的に噴出することでしられている。特に、最初の歴史時代の噴火は2003年のものであり、2003-2005年の爆発的な準プリニアン噴火による火山灰は島全体を覆った。この時、またはそれ以前に海底ではどのような噴火があったのか。島の山頂噴火と海底の山腹噴火はどのような関係にあるのか。これらを海底噴出物とアナタハン島の噴出物を比較して議論していきたい。
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