研究課題/領域番号 |
23340169
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
角野 浩史 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (90332593)
|
研究分担者 |
水上 知行 金沢大学, 自然システム学系, 助教 (80396811)
WALLIS R・Simon 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (30263065)
鍵 裕之 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (70233666)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | ハロゲン / 希ガス / 沈み込み / スラブ流体 / 質量分析 / 中性子照射 / 顕微分光分析 / マントル |
研究概要 |
本研究では、原子炉で試料に中性子を照射しハロゲン元素を希ガス同位体に変換し質量分析により検出することで、ハロゲン元素を超高感度で定量する。本年度は、昨年度に高度化した分析システムを用いて、北海道・日高変成帯のかんらん岩やカムチャッカ半島・アバチャ火山、フィリピン・ピナツボ火山のマントル捕獲岩といった、マントルウエッジ物質をハロゲン分析した。その結果、四国・三波川変成帯のカンラン岩で既に報告している、深海底堆積物中の間隙水と似た組成のハロゲンが、マントル起源ハロゲンと異なる割合で混合して含まれていることが明らかになり、間隙水起源のハロゲンの沈み込みが普遍的な現象であることが示唆された。 また希ガス同位体比の分析精度をさらに向上するために、質量分析計のイオン源を制御する多チャンネル高圧電源を更新した。これを用いて南米パタゴニア地域のマントル捕獲岩を分析したところ、通常のマントル物質よりもU・Thに由来するNeの寄与が大きく、過去の沈み込みによるこれらの元素の付加が、Ne同位体組成の異常という形で初めて明らかになった。 分担者のウォリスは、マントルウエッジにおける蛇紋石の分解の重要性に着目し、蛇紋石が低圧で脱水した例として長野県の八方尾根の蛇紋岩体について微細構造と結晶方位を測定した。その結果、新しく成長したかんらん石の結晶方位は元々の蛇紋石の方位に影響されることが分かった。 分担者の水上は、四国・三波川変成帯の東赤石岩体において、蛇紋岩化の過程や水の存在下でのダナイトの変形を調べた。希ガス・ハロゲン分析に用いることで水の起源の制約に有用な、特徴的な組織を示す蛇紋石や角閃石の選別を進めている。 分担者の鍵は、特種なダイヤモンドであるカルボナドに、水を主成分とする流体が捕獲されていることを赤外スペクトルから示した。この流体の起源を調べるために、希ガス・ハロゲン分析を行うことを計画している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の主な達成目標であった、マントルウエッジ物質の極微量ハロゲンの分析は概ね予定通りに進行し、その結果を踏まえて次に分析するべき試料の検討も、研究分担者らによる岩石学・鉱物学的研究や、顕微分光分析などにより順調に進んでいる。また希ガス質量分析計の改良も目標通り完了し、極微量希ガス・ハロゲンの高精度分析の態勢はじゅうぶん整っている。 一方で昨年10月に再稼働する見込みであった、日本原子力研究機構の材料試験炉JMTRが、国内の商用原子炉の運用問題と絡んで再稼働されず、新たに採取した試料の中性子照射が全く行えていないために、今後ハロゲン分析を行うための試料の準備が進んでいないことが、当初の予定より遅れている点として挙げられる。
|
今後の研究の推進方策 |
上で述べたとおり、試料の中性子照射に不可欠な研究用原子炉の再稼働の見通しが不透明な点が、今後の研究を進めていく上で大きな問題となっている。そこで国内で唯一稼働している、京都大学原子炉実験所の研究炉KURを利用するべく、照射枠の確保と照射条件の検討を現在進めている。ただしKURが利用できたとしても、照射できる試料数は当初の予定より大幅に制限され、照射できる中性子フルエンスもJMTRと比べて一桁程度低いと予想される。従って、岩石学・鉱物学的検討や非照射試料の希ガス分析、顕微分光分析などをじゅうぶんに行い、スラブ由来流体の特徴を強く残している試料を厳選してハロゲン分析に用いる。 新たな分析対象としては、沈み込みから比較的離れた大陸下マントルを代表していると考えられる中国東北部や韓国・済州島のマントルかんらん岩や、逆にスラブ由来流体の影響を強く受けていると考えられる紀伊半島・龍門山岩体や四国中央部・白髪山岩体、長野県八方尾根などの蛇紋岩体を予定している。また限られた量の試料から最大限の情報を引き出すために、試料の微小部位から選択的にハロゲン由来の希ガスを抽出するためのレーザーを導入する。
|