研究課題/領域番号 |
23340170
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
長尾 敬介 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (40131619)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | 原始太陽系星雲 / 太陽風 / ガスリッチ隕石 / I-Xe年代 / 星雲散逸 |
研究概要 |
太陽系形成過程の研究において、原始太陽系星雲中に多量に存在したガスと塵が消滅した時期の決定は、隕石の母天体である小惑星や惑星などの形成環境解明において最も重要な問題の一つでありながら有効な方法が無かった。我々は過去数年間おこなってきた角礫岩質隕石の研究から、太陽風起源希ガスを多量に含む暗色部分と、ほとんど含まない白色部分を持つある種の隕石のI-Xe年代を測定することにより、その隕石母天体形成領域の晴れ上がり年代を数値として絞り込んで行けることを発見した。本研究は、この手法を多くの隕石に適応して、長年の懸案であった原始太陽系星雲からのガスや塵の散逸時期を、初めて数値として確定することを目的とする。 本研究の重要な部分をなすI-Xe年代測定には、隕石試料を原子炉で中性子照射して、ヨウ素(I-127)をXeの同位体(Xe-128)に核変換する必要があるが、2011年の震災および原子炉事故に伴って、我々が東北大学金属材料研究所の共同利用として中性子照射を実施させていただいていた東海の実験用原子炉JMTRやJRR-3が停止している、2012年夏頃には再稼働との見通しがあったが、結局稼働されなかった。このため、ベルギーや京都大学の原子炉で中性子照射の可能性を調べて、今年6-7月には京大原子炉で照射できる見通しが立ってきた。 このような状況で、震災前にすでに中性子照射が終了していた試料を用いて、東京大学アイソトープセンターの質量分析計の更なる改良と、性能試験を行って、分析に備えた万全の体制を作ってきた。また、照射試料の準備と基礎的な希ガス組成のデータを得るために、darkとlightの組織を持つ角礫岩質隕石やその他の角礫岩質隕石の希ガス同位体組成を、放射性物質を扱わない通常の質量分析装置で測定して、太陽風起源希ガスの有無と他の希ガス成分や宇宙線照射年代を調べている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の重要な部分をなすI-Xe年代測定には、隕石試料を原子炉で中性子照射して、ヨウ素(I-127)をXeの同位体(Xe-128)に核変換する必要があるが、2011年の震災および原子炉事故に伴って原子炉が停止している。我々が東北大学金属材料研究所の共同利用として中性子照射を実施させていただいていた東海の実験用原子炉JMTRやJRR-3も昨年夏頃に稼働と言われていたが、結局現在も見通しが立っていない。このことが、研究の進展の遅れに直接結びついている。昨年後半にはベルギーの炉での照射の可能性も示唆されたが、これも進展が無いため、京都大学の原子炉で中性子照射を実施させていただく手続きを進めて、近々照射できる見通しが立ってきた。 この課題の初年度の研究費で、東京大学アイソトープ総合センターに設置してる質量分析装置のガス精製ラインを抜本的に改造したので、震災前に照射していた試料を用いて装置の調整と性能向上を行ってきた。これにより、試料の中性子照射が行われれば、その分析体制は整っている。 照射試料とは別に、darkとlightの組織を持つ角礫岩質隕石やその他の角礫岩質隕石の希ガス同位体組成を、放射性物質を扱わない通常の質量分析装置で測定して、太陽風起源希ガスの有無と他の希ガス成分や宇宙線照射年代を調べ照射試料の準備をおこなった。
|
今後の研究の推進方策 |
研究課題の推進としては基本的に変わらないが、京都大学の原子炉で中性子照射実施を主体として進めていく。中性子束が東海のJMTRに比べて一桁近く弱い点を補うことができるかどうかが、年代の測定精度にある程度効いてくる可能性もあるが、測定の目処は立ってきた。 震災前にすでに中性子照射が終了していた試料や京都大学の原子炉で中性子照射を実施する試料の分析と、すでに得られているI-Xe年代データを総合して、本研究の目的は達成できると考えている。問題点としては、中性子照射条件や実際の照射時期の遅れなどにより、分析時期の遅れが考えられる。この場合、半年程度の成果報告の遅れを申請せざるを得ない可能性もある。 これら分析と並行して、分析データのまとめの作業をおこない、論文や学会発表として公表する。これまでに得られている予備的な結果と、初期太陽系形成史のモデルを考慮すると、以下のような結果が予想される。light部分のI-Xe年代はI-Xe年代の標準試料Shallowater隕石と同程度から1-2 Myr後の年代、dark部分は10-50 Myr後の年代が予想される。これらの予想と得られる年代及び試料の岩相など観察結果とを比較検討して、実際に近い時間軸を入れたガス散逸過程を構築する。
|