太陽系形成過程において、原始太陽系星雲中に多量に存在したガスと塵が消滅した時期の決定は、隕石母天体である小惑星や惑星などの形成環境解明において最も重要な問題の一つでありながら有効な方法が無かった。この問題を解決する方法の一つとしての実験的方法を提起することが、本研究の目的である。我々の研究室で過去数年間行ってきた、角礫岩質隕石の希ガス捕獲成分研究と、国内で初めて可能としたI-Xe年代測定を組み合わせた方法により、対象としている隕石母天体形成領域の晴れ上がり年代を数値として絞り込んでいけることが、2011年頃までに得られた結果から予想された。この研究では、角礫岩質隕石の希ガス元素濃度および同位体組成を測定して、太陽風起源の希ガスが高濃度で含まれるかどうかを調べると共に、それぞれの隕石のI-Xe年代を測定する。太陽風起源のガスが角礫岩質隕石に含まれていれば、天体衝突による角礫化の時には、太陽風が到達するほどに太陽系空間が晴れ上がっていたと考える。I-Xe年代測定には、隕石試料を原子炉で中性子照射して、ヨウ素同位体(I-127)をXe同位体(Xe-128)に核変換して、放射性物質を取り扱うことが出来る施設内に設置した希ガス専用質量分析装置で測定する必要がある。2011年の震災以後国内の実験原子炉の稼働がほとんど停止したため、京大原子炉KURによる照射試料が唯一の分析試料となった。十分ではないが、得られた結果はこれまでの結論と矛盾はなく、原始太陽系星雲の晴れ上がりが太陽系最古の物質と考えられているCAIから2-5千万年後に起こったことが支持される。このような、実際の太陽系形成環境を記憶していると考えられる隕石試料を用いた研究は、今後重点的に推進される課題である。実験用原子炉の再稼働が可能となれば、この研究のさらなる進展が期待される。
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