研究課題/領域番号 |
23340171
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
横山 哲也 東京工業大学, 理工学研究科, 准教授 (00467028)
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研究分担者 |
平田 岳史 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (10251612)
中本 泰史 東京工業大学, 理工学研究科, 准教授 (60261757)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 高精度同位体分析 / 原始太陽系星雲 / 隕石 / 安定同位体 / TIMS |
研究概要 |
岩石の分解法開発と同位体測定について大きな進展があった。アンモニウム塩融剤を用いた試料の分解法は融解後に発生する固形物(酸化物など)の処理に問題があることが判明したため、開発を中止した。一方、フッ酸・硝酸・硫酸の混酸による高温高圧分解法が難溶性プレソーラー粒子(例えばSiC)の分解に非常に効果的であることが分かった。硫酸分解法を適用して分析した炭素質コンドライトのSr同位体分析から、コンドライトがp核種(84Sr)の過剰を保持していることが明らかとなった。一方、同一試料のNd同位体分析からは、元素合成起源の同位体異常はみつからなかった。このような不一致はコンドライト構成物質が太陽系内のどのような場所で形成されたのか、強い制約を与えるものである。 岩石の完全分解法と並行して、岩石微小領域のサンプリング技術である液中レーザーアブレーション(LAL法)の開発を精力的に行った。普通コンドライト中の金属相および共存する硫化物相を対象に鉄の安定同位体分析を行った。硫化物相中の鉄同位体はコンドライトの岩石学的グループに対応して大きく変動するのに対し、金属相の鉄同位体は岩石学的グループによらず一定値をもつことがわかった。また両者の鉄同位体の違いを見ると、非平衡コンドライトでは、金属相も硫化物相も同じ鉄同位体比をもつのに対し、平衡化するにつれて金属相と硫化物相間の鉄同位体は約0.6‰の値に近づくことがわかった。この差は、平衡条件での鉄同位体分別であり、コンドライトの平衡化にともない、鉄同位体が金属相と硫化物相間で平衡化することがわかった。 理論面では原始惑星系円盤中のダストの移動を調べ、太陽系初期における物質の不均質性や均質化について量的な理解を得ることを目指している。H24年度は円盤モデルの数値シミュレーションコード開発を進めた。また、関係する物理的・化学的素過程の洗い出し作業も進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2年目までに完成を目指した、難溶性プレソーラー粒子を含む隕石の完全分解法を開発できたことは大きな成果である。また、その技術を用いて炭素質コンドライトのSrおよびNd同位体組成を求めることができたのは予想を上回る達成度といえる。MoおよびTe同位体分析の技術開発も基礎的な部分はほぼ完了し、実サンプルを多数測定する最終年度に向けて基盤を構築した。 次世代サンプリング技術であるLAL法およびそれを用いた鉄安定同位体分析法については実用化がほぼ完了し、当初の研究目的通り、普通コンドライトから基礎データの取得を進めることができた。現在、より多様かつ微小な金属相からのサンプリングを進めており、今後、コンドライト中の金属相・硫化物相の成因についてより定量的な議論をすすめる予定である。 円盤モデル開発では,円盤進化の基礎的過程を取り扱えるようにはなった。しかし残念ながら、分析チームが出す結果と定量的に比較し議論できるまでにはいたっておらず、最終年度の課題となっている。 以上のように、同位体分析や理論モデル開発においてそれぞれの課題は順調に進行しているが、最終的な目標である分析データと理論モデルのリンクにおいて不十分な点が見受けられるため、「おおむね順調に進展している」という評価にした。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度はこれまで開発してきた同位体分析技術を実際の隕石に適用し、分析データ数を増やすことが大きな目標の一つである。より具体的には、これまで開発に成功したTIMSを用いたMo・Te・Sr・Ndの高精度同位体分析を中心に行う。対象とする隕石は既に入手したコンドライト(10試料)、鉄隕石(5試料)、エイコンドライト(5試料)である。これにより、親鉄難揮発性元素(Mo)、親石難揮発性元素(Nd)、親石親水性元素(Sr)および揮発性元素(Te)のデータセットをそろえることが可能となり、初期太陽系における多元素の同位体空間分布が明らかになる。 LAL法を利用した同位体分析の開発は重点的に行う。昨年度までの実験で、金属相および硫化物相から正確な鉄安定同位体情報を引き出すことができた。LAL法をさらに応用し、より複雑な形状の微小金属相・微小硫化物相に応用することで、コンドライト母天体上でおこった普遍的かつ正確な金属相・硫化物相の成因を議論する。特に、コンドライトの微小領域同位体情報と全岩の同位体組成を比較することで、原始太陽系星雲および母天体上で起こった金属相の成長過程を調べ、太陽系内での物質進化を包括的に議論する。 理論研究グループはこれまで取り組んできた、原始惑星系円盤の形成・進化理論モデルの完成を急ぐ。完成後ただちにシミュレーションを実施する。さまざまな条件でのダスト移動を調べ、同位体分析の結果との定量的比較を行う。分析グループとの密接な議論・検討を通じ、初期太陽系における物質均質化について新たな量的理解を得ることを目指す。
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