研究概要 |
磁場閉じ込め装置では第一壁を保護するために長らく炭素材料が用いられてきたが,国際熱核融合実験炉(ITER)ではトリチウム蓄積や高熱流束除去等の理由によりタングステンの使用が決定された.ITERでの核燃焼定常実験を成功させるためにはタングステンの挙動を調べることが死活的に重要である.そこで,プラズマ診断に必要なタングステンに関するデータを取得するために,大型ヘリカル装置(LHD)と付属する分粥計測機器を用いて可視からX線に至るスペクトル線を観測し,スペクトル構造を解明すると共にスペクトル線強度に関するモデリングと不純物診断法の開発を行う.昨年度(平成23年度)にはタングステン含有不純物ペレットをLHDに入射し,既存のEUV分光器を用いてその空間分布を計測した.W^<+41>イオン辺りのスペクトル分布を利用し,電子温度・密度分布から不純物輸送に関する計算を試みた.しかし,計測された電子温度では実験データを説明できず,輸送コードに用いている電離もしくは再結合係数に問題があることが判明した.特に二電子性再結合過程はその複雑性から通常輸送コードには含まれておらず,再結合係数を過小評価している可能性を見出した.つまり,タングステンの輸送を解析する前に電離平衡計算に必要な電離・再結合係数の見直しの必要性が判明した.空間分布を計測しているため容易にプラズマ中心に存在しているタングステンイオンの価数が分かるので,実験から再結合係数の評価を行うことが可能である.今後のタングステン研究に大きな飛躍となることが予想される.また,磁気双極子禁制線の観測ではW^<26+>の3894Åと思われるスペクトルが観測できた.タングステンの磁気双極子禁制線をLHDで初めて観測でき,今後の研究の進展に向け大きなステップとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
LHDでタングステン他高Z元素ペレットを入射し,首尾よくスペクトル観測に成功した.また,日本物理学会にて表題にある内容についてシンポジウムを開催し,研究の現状,課題の整理,今後の方針について議論を行った.
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今後の研究の推進方策 |
今年の夏から開始されるLHD実験でのデータ取得に向けて,高Z多価イオンのスペクトルが主に存在する短波長領域(10・100Å)でのEUVスペクトル空間分布計測のために,EUV分光器を整備する.装置設計や必要な予算の確保は済んでおり,順調に実験前の完成に向けて準備が進んでいる.また,得られたデータの解析やそのモデリングに必要な計算コードも新たに準備を進めている.実験上の問題点は入射するタングステン等高Z元素量の最適化に手間取っている.新たな技術を付加し今年の実験に備えている.
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