研究課題/領域番号 |
23340183
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研究機関 | 核融合科学研究所 |
研究代表者 |
森田 繁 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 教授 (80174423)
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研究分担者 |
後藤 基志 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 准教授 (00290916)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | プラズマ核融合 / プラズマ計測 / プラズマ分光 / 原子分子物理学 / 磁気双極子禁制線 |
研究概要 |
磁場閉じ込め装置では第一壁を保護するために長らく炭素材料が用いられてきたが,国際熱核融合実験炉(ITER)ではトリチウム蓄積や高熱流束除去等理由によりタングステンの使用が決定された.ITERでの核燃焼定常実験を成功させるためにはタングステンの挙動を調べることが死活的に重要である.そこで,プラズマ診断に必要なタングステンに関するデータを取得するために,大型ヘリカル装置(LHD)と付属する分光計測機器を用いて可視からX線に至るスペクトル線を観測し,スペクトル構造を解明すると共にスペクトル線強度に関するモデリングと不純物診断法の開発を行う.昨年度(平成24年度)はこれまでとは異なりタングステン細線をポリプロピレンチューブに収めた不純物ペレットを新たに作成した.これをLHDに入射することにより,これまでのタングステン粉末と比較してより定量的にタングステン入射量を制御することに成功した.それに加えて新たにタングステン入射時の制動放射分をEUV分光器を用いて計測し始めた.これによりタングステンの入射量とプラズマに閉じ込められたタングステン量を定量的に把握することが可能になり.より精密なタングステン輸送に関する研究が可能となった.また,タングステンのより詳しい振舞いを調べるためにW44+イオン発光線の分布を計測し,その定量化を行ったきたが,新たにW45+イオンスペクトルも同定することに成功し,タングステンイオンの定量化にむけた選択枝を増やすことが可能になった.これらイオンスペクトルの精密な解析のためにタングステンスペクトルモデリングを発展させ,少なくとも低価数のタングステンのスペクトルをシミュレーションすることに成功した.今後実験データを解析する上で重要なツールを築き挙げつつある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
LHDでタングステン内臓不純物ペレットを入射し,首尾よくタングステンスペクトルを観測することに成功した.また,タングステンスペクトルの空間分布も観測した.W44+イオン空間分布スペクトルの絶対強度を解析し,それを磁気面分布と併せて解析することによりタングステンスペクトルの局所放射強度を求めた.実験で求めたスペクトル分布を再現できるような電子温度を仮定し不純物輸送コードを用いてタングステンスペクトルを解析した.タングステンスペクトル解析にはHULLACコードを基礎とする最も新しい原子分子データを使用した.結果として世界で初めてタングステンイオンの高温プラズマ中での定量化に成功した.算出したタングステン密度はW44+イオン密度が5.6x109cm-3,タングステン全量密度が3.5x1010cm-3であった.これらの成果を基にして成果の一端をプラズマ架空業学会誌,米国物理学会プロシーディング集へ投稿中である. 中国・合肥・等離子体物理研究所保有の超伝導トカマク装置「EAST」は平成25年末よりタングステンダイバータを用いた定常放電を計画している.タングステン計測に向け新たに専用のEUV分光器とそのための専用計測ポートを製作し設置することに合意した.これによりLHD装置のみならずEAST装置でもタングステンスペクトル研究を行うことが可能となりより研究の機会を増大させることに成功した.本科研費の当初計画では国内装置,特にLHD装置を念頭において研究計画を策定していたが,LHDでの実験期間は年間3ヶ月に限定されており,タングステン計測のためにはタングステンペレット入射を必要とするが,EASTはタングステンダイバータを有しているためタングステンスペクトルの研究がより加速されるものと期待している.当初計画を上回る研究の進展を得た.
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今後の研究の推進方策 |
今年の秋から開始されるLHD実験でのデータ取得に向けて,タングステン・ポリプロピレン2重構造ペレットの更なる信頼性向上のための基礎実験を行う.タングステンスペクトルを観測するためのCCD検出器を交換し,より時間分解能を向上させる.必要な予算の確保は済んでおり,順調に実験前の完成に向けて準備が進んでいる.また,得られたデータの解析やそのモデリングに必要な計算コードの開発も順調に進展している.更にタングステンスペクトルや制動放射連続光の空間分布を計測し,不純物輸送コードやアーベル変換コードを整備し,本格的な輸送解析に向け研究を加速させる. 以上のハードウェアに関する研究進展に加え,タングステンスペクトルを解析するための原子分子コードの整備も併せて行う.Zn様タングステン(W44+)やCu様タングステン(W45+)の場合にはスペクトル構造が簡単でHULLACコードを用いたスペクトル解析は可能であるが,UTAと呼ばれる擬似連続スペクトル(各々のスペクトルが混在し)の解析には独自に解析コードを作成する必要がある.現在一部のイオン価数については作成を始めており実験との対比が行えつつある.今後はこれを更に多くの価数のタングステンイオンに拡張していく. 当初計画には無かった内容ではあるが,中国・合肥の等離子体物理研究所のEASTでのEUV分光器の設置を進め,タングステンスペクトル観測に向けた実験環境の整備を進めていく.必要な予算は別途調達可能である.今年度中には分光計測機器の整備を完了する予定にしており,来年度から本格的な観測を行える計画にしている.
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