研究課題
磁場閉じ込め装置では真空壁を保護するため第一壁として炭素材が長年用いられてきたが,国際熱核融合実験炉(ITER)ではトリチウム蓄積回避や高熱流束対応等の理由によりタングステンを使用する.ITERでの核燃焼定常実験を成功させるためには高温プラズマ中でのタングステンの挙動を理解することが死活的に重要となる.そこで,プラズマ分光診断に必要なタングステンに関する基礎データを取得するため,大型ヘリカル装置(LHD)と付属する分光計測機器を用いて可視からX線に至るスペクトル線を観測し,複雑なタングステンスペクトルの構造を解明する.同時にスペクトル線強度に関するモデリングと不純物診断法の開発を行う.昨年度(平成25年度)は新しく開発したタングステン金属細線を内蔵する同軸型ポリプロピレン及び同軸型炭素不純物ペレットを本格的に実験に使用し始めた.LHDにはプラズマ電流が存在しないため許容不純物レベルは非常に高いが,更に入射タングステン量を最適化することに成功し,トカマク装置を含めこれまでに行われてきたタングステンに関する様々な実験研究とは比較にならないほど明るいタングステン光源の生成に成功した.結果として可視域で磁気禁制線と呼ばれる多価に電離されたタングステンイオンからのスペクトルを新たに数多く発見できた.また,W45+イオンが127Å付近で単独に発光していることを突き止め,精度のよい空間分布を得ることに成功した.これまで観測していた60.9Å付近のW44+イオンスペクトルは他のタングステンスペクトルが混合している可能性があったが,今回検証したスペクトルはこれを完全に排除する.また,VUV領域において高スペクトル分解分光計測を開始した.タングステン流入束を計測できる低電離スペクトル線を発見できる可能性がある.
1: 当初の計画以上に進展している
新規に開発したタングステン内臓同軸型不純物ペレットを入射し,放電が放射崩壊しない上限値に入射タングステン量を設定し,最適化することに成功した.その結果,磁場閉じ込め核融合プラズマを用いた世界で最も明るいタングステン光源を手に入れることができた.この明るい光源を用いて可視域禁制線(例えば磁気双極子禁制線)計測に挑戦した.タングステンペレット入射後,100msという短時間露光で非常にS/N比の高い多くの禁制線スペクトルを観測することに成功した.タングステンイオンの可視域禁制線を磁場閉じ込め核融合プラズマで観測したのは世界で初めてであり,今後のタングステン輸送計測への応用が期待される.また,これまで行われてこなかったVUV領域(500-3000Å付近)での高波長分解タングステン分光を開始した.タングステンの流入束を解析できる低電離タングステンイオンスペクトルを発見することが目的である.一方,EUV分光ではこれまでW44+イオン空間分布スペクトルを観測し,その絶対強度からタングステン密度の定量化を進めてきた.しかし,そのスペクトルには他のタングステンスペクトルが混入している可能性があった.今年度はそのスペクトル線に替え,新たにW45+イオンからのスペクトル線を127Å付近に見つけ,その空間分布を観測した.他のスペクトルが混入している可能性はほとんどなく,より精度の高いタングステンイオンの定量化が進められるようになった.中国・合肥・等離子体物理研究所の超伝導トカマク装置「EAST」は現在,タングステンダイバータの設置を完了しつつあり,EUV分光器とその専用計測ポートの製作も完了しつつある.LHDでの実験期間は年間3ヶ月に限定されており,タングステンペレット入射を必要としないEASTでのタングステンスペクトル研究は異なった視点からのデータ解析が可能になるものと期待している.
平成26年度のLHD実験は軽水素を用いた最後の実験と位置付けられている.軽水素実験のまとめとなるデータを取得するよう要請されており,本科研費研究も効率的なデータ取得がより求められる.同軸型不純物ペレットの開発により本研究に適した実験が行えつつあり,更なるデータの質的向上を目指して計測機器の改善を行う.3m直入斜分光器の検出器を最新のCCD検出器に交換し,時間分解能の向上と共により明るい分光計測系の構築を目指す.机上の計算では最大5倍程度の分光器感度の増大が見込まれる.これまでS/N比の問題で計測できなかったプラズマ周辺部に存在する低電離タングステンVUVスペクトルやその空間分布が観測できるものと期待する.同時にタングステンスペクトルを用いたイオン温度計測に挑戦する.データ解析やそのモデリングに必要な計算コードの開発も順調に進展している.特にUTAと呼ばれる多くのスペクトル線が密集した疑似連続光を形成するスペクトル群を解析するモデリング計算が進展してきており,それを用いたデータの定量評価を開始した.今後,本格的に計算コードを用いたデータのモデリングを進めていく.また,空間積分データを局所発光データに変換するアーベル変換プログラムも有限ベータ効果を取り入れほぼ完成しつつある.データを本格的に解析することにより,プログラムの詳細を修正し,タングステンの定量的診断をより高精度に仕上げる.中国・合肥の等離子体物理研究所のEASTでのEUV分光器の設置を年度当初には完了する予定である.タングステンスペクトル観測に向けた整備と準備を着実に進め,平成26年中にはデータ取得の見込みである.LHDのタングステンペレットとEASTのタングステンダイバータからの両スペクトルの比較を開始する.平成27年度のLHD実験は現在未確定であり,EASTでの実験データが貴重となる.
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