研究概要 |
結晶の表面・界面で起こる光化学反応や分子吸蔵現象などについて詳細な構造化学的研究を実現するには、結晶表面から数ミクロン領域の三次元構造情報が得られる「結晶表面薄膜の構造解析法」の実用化は重要と考えられ、放射光X線を結晶表面にすれすれに入射させながら結晶を回転させて回折X線強度を測定する薄膜単結晶構造解析法の実現を目指した。 結晶表面薄膜の構造解析法の評価は、平坦な板状結晶が得られ、エピタキシャル成長により薄膜結晶が得られる、シクロヘキサンジアミン配位子を含むハロゲン架橋一次元白金(II,IV)混合原子価錯体の単結晶とエピタキシャル結晶を用いて行った。回折X線強度測定は、SPring-8 BL13XUの多軸回折計を用い、X線マイクロビームを入射角0.3°~0.7°で結晶表面に照射し、結晶を180°回転させてX線強度を測定した。測定には、共焦点顕微鏡で表面形状を測定した基板結晶のみ(大きさ約1.0×1.0mm2、凹凸0.16μm)と、基板結晶(大きさ約0.6×0.5mm2、凹凸0.56μm)上に薄膜単結晶(厚さ約0.2μm)をエピタキシャル成長させた試料を用いた。吸収補正とLp補正の計算式を独自に導き、これらの補正後の実測の構造因子|Fo|2を、結晶構造から計算した構造因子|Fc|2と比較した。この結果、表面が平坦な基板結晶のみについて、|Fo|2と|Fc|2から計算したR因子は入射角0.5°の38反射に対して0.069であった。一方、表面の平坦さがあまり良くないエピタキシャル結晶では、基板結晶についてはR=0.13と比較的良いが、表面薄膜結晶についてはR=0.60(29反射)と良くない。しかし、適切に測定できていると見なせる17反射についてはR=0.10であった。これより、表面が平坦な結晶では、表面薄膜単結晶の構造解析が可能であると結論できた。
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