研究課題/領域番号 |
23350013
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研究機関 | 独立行政法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
板倉 隆二 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 量子ビーム応用研究部門, 研究副主幹 (80334241)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 強レーザー場 / イオン化 / 励起 / 多チャンネル / コヒーレンス |
研究概要 |
本研究は、強レーザー場中にて起こる分子のイオン化について、イオンの複数の終状態へと至る多チャンネル励起・イオン化ダイナミクスの詳細を明らかにすることを目指している。平成24年度は、以下の項目について研究を進めた。 1.光電子・解離イオン同時計測による相関計測: 強レーザー場中エタノールの解離性イオン化反応において、生成する複数の解離イオン毎に解離チャンネルを分けた光電子スペクトルを見るだけでなく、解離イオンの運動量ベクトルについても観測した。光電子エネルギーからは、イオン化直後の状態を同定することができ、解離イオンからは、最終的なイオンの電子状態だけでなく、レーザー場から獲得した励起エネルギーについて抽出することに成功し、イオン化と励起の相関について明らかにした。この成果は、論文投稿中である。 2.光電子・イオンコア相関波束計算: 前年度に理論の構築が終わり、本年度は、Arイオンのスピン軌道分裂2準位へのイオン化を具体的な対象として、取り上げた。まずは、真空紫外パルスによる1光子イオン化について、1電子近似の元でイオン化を取り扱うが、イオンコア、光電子散乱波、および電子を放出する束縛電子軌道について、取り得るすべての (J, M) の組を考慮に入れ、計算プログラムの構築を進めた。 3.真空紫外パルスを用いた光電子干渉実験: 高次高調波発生よって得た真空紫外パルス光を用いた光電子実験装置について、信号強度の改善を図るため、真空紫外パルスの集光系を導入した。また、真空紫外波長領域では、ビームスプリッターが存在しないため、基本波の段階でダブルパルスとするか、空間分割型干渉計を用いて適切に空間フィルタリングすることが必要である。基本波の干渉計については、フリンジ分解自己相関計測によりサブfsの位相分解能が達成されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
光電子・イオン同時運動量計測データの綿密な解析により強レーザー場によって誘起される多チャンネルイオン化のイオン化および励起経路の詳細を明らかにすることに成功した。また、光電子干渉からイオンコアのコヒーレントな状態を観測することが、理論および数値計算の上から明らかとなり、それに対応する実験を進めている。真空紫外パルスの空間分割型干渉計が使えないことが確認されたものの、基本波段階におけるダブルパルス化や空間フィルタリングなど別の方法が準備され、また、可視・紫外パルスによる多光子イオン化による光電子干渉実験も進めており、最終年度である次年度に、実験成果を得るための準備は、ほぼ完了している。
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今後の研究の推進方策 |
本年度末に、新しいフェムト秒レーザー増幅器 (60 fs, 1.5 mJ/パルス) を自作し、設置することができたため、次年度から利用できるレーザーマシンタイムが大幅に改善される。これまで、立ち上げてきた実験装置も、整備がほぼ終わり、データ取得できる段階になっており、精力的に光電子計測実験を進めていく。イオン化過程としては、真空紫外1光子イオン化に加え、12 fsパルスや紫外パルスを用いた多チャンネル光電子干渉の実測を目指す。これまでに得られた理論・計算の結果について、速やかに、論文発表および学会発表を行うとともに、光電子干渉以外の多チャンネルイオン化の実験結果に関しても、論文発表を進める。
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