研究課題/領域番号 |
23350014
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
篠田 渉 独立行政法人産業技術総合研究所, 健康工学研究部門, 主任研究員 (70357193)
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研究分担者 |
都築 誠二 独立行政法人産業技術総合研究所, ナノシステム研究部門, 上級主任研究員 (10357527)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 自由エネルギー / ストーク / 分子動力学シミュレーション / 膜融合 / ストレス / 膜弾性 |
研究概要 |
膜融合過程をストーク中間体形成過程、ストーク中間体から融合細孔形成の2段階に分けて、それぞれの過程の自由エネルギー計算を試みた。前者は2つの脂質二重層の外膜同士がつながる過程であり、後者は内膜同士がつながる過程である。これらの過程における膜の変形を特徴づける反応経路を探索するため、外部条件を変更することによって融合を進める試行分子動力学(MD)計算を繰り返し行った。観測に基づいて得られた反応経路を用いて、自由エネルギー障壁の見積もりを熱力学積分法により実行した。その結果、自由エネルギー障壁の高さは脂質組成比、融合する脂質二重層間距離、曲率などに依存して大きく変わることを明らかにした。 膜融合過程における膜の変形(弾性)エネルギーの解析は大きなベシクル間の膜融合を特徴付ける上で大変重要である。連続体弾性理論による解析を分子シミュレーションと結びつけるため、MDから弾性係数を精度よく求める手法を開発した。曲げ弾性係数の見積もりには外場を用いた曲げに対する膜の応答(平均力)を観測する手法を開発した。直感的に実験とのよい対応を示す手法であり、数値的な収束もよく、粗視化分子モデルによる計算も良好な値を示した。さらに、融合の膜変形過程でより重要なガウス弾性係数を求める手法の開発にも成功した。ストレス分布の解析から弾性係数を算出するが、ストレスを球座標系で計算することでベシクルなどの曲がった膜の弾性係数の見積もりを可能とした。これにより、弾性係数の曲率依存性をMDから直接解析可能となった。 粗視化分子モデル開発についても進展した。特にタンパク質モデルの構築及び高精度化に着手し、側鎖セグメントのモデルの改良を行った。水溶液及びアルカン中における側鎖セグメント2量体の会合自由エネルギーについて、まず全原子モデルでの計算を系統的に実行し、その結果を再現するような粗視化モデルを構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
膜融合過程を特徴付ける自由エネルギー障壁の見積もりの方法論的な問題点を整理し、様々な試行錯誤によって評価法確立の見通しを持つことができた。現状で、単純な脂質膜間の融合自由エネルギー障壁の定性的な評価は可能であり、膜組成や添加物等による融合現象の起こりやすさの変化に対する指標を与える計算手法を実装する準備が整った。脂質やタンパク質の粗視化モデルの構築及び改良についても着実に進展をしており、簡単な融合ペプチドの試し計算なども実行可能な状況となってきた。また一方で、よりマクロスコピックな膜弾性の立場から融合過程のエネルギーを記述する手法に関する進展もあり、分子シミュレーションでの取り扱いが容易ではない、サブミクロンスケールのベシクルの融合に対するエネルギー解析も視野にいれた研究展開が可能となった。今後の融合タンパクを入れた分子シミュレーションによる膜融合研究の展開に向けた準備が整っており、順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
融合促進因子としての融合ペプチド、タンパク質の膜融合の自由エネルギー障壁への影響を定量的に評価することを第一の目標として取り組む。そのために第一にペプチドの粗視化モデルの完成に全力を挙げることにする。側鎖に関するモデルは完了しており、主鎖の改良によって精度の高い粗視化モデルを作成する。このために、融合タンパク質の全原子モデルによる分子動力学シミュレーションを系統的に行い、必要に応じてモデルの改良にも取り組む。膜の変形に伴うストレス分布の変化の解析は大きなベシクルの融合において重要であり、より高解像度でストレス分布の計算を可能とする手法開発にも取り組む。これにより、分子論に基づいたマルチスケールな解析手法を確立し、膜融合を促進する因子の多角的な解析を実現する。
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