酵素の活性部位の構造的特性を採り入れた新規なナノサイズの反応場として、デンドリマー骨格に基づく分子キャビティを開発し、これを内部官能基の立体保護場として活用することで、従来合成困難であった生体反応活性中間体を手に取れる形に安定化するとともに、その構造および反応性を直接的に解明することを目的とした。本年度は、硝酸エステルの血管拡張作用機序におけるシステインの関与についてのモデル研究を中心に検討した。ニトログリセリンをはじめとする硝酸エステルは、顕著な血管拡張作用を有するために狭心症などの特効薬として古くから用いられている。しかし、その作用機序、特にどのようにして硝酸エステルから一酸化窒素(NO)あるいはNOドナーが生成するかについては、いくつか仮説が立てられているが未だ証明されていない。今回、システインユニットをボウル型キャビティの内部に固定した新規なモデル化合物を活用することで、システインと硝酸エステルとの反応によるシステインチオニトラート生成過程を実証するとともに、この中間体から他のシステインへのニトロソ転移が進行することを明らかにした。これらの結果から、硝酸エステルの代謝過程として提唱されていながら仮説の域に留まっていた反応過程の実証に成功した。また、ニトロキシル(HNO)とシステインチオールとの反応中間体であるN-ヒドロキシスルフェンアミドの反応性について検討し、N-ヒドロキシスルフェンアミドがスルフェニルニトレン前駆体として機能することを初めて見出した。
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