研究課題/領域番号 |
23350022
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
小嵜 正敏 大阪市立大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (10295678)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ポルフィリン / 人工光合成 / 太陽光捕集 / 光電変換 / デンドリマー / ナノ材料 / クリック反応 / 分子集積 |
研究概要 |
共役鎖内包型デンドリマーを精密に集積してナノスケール分子を得るため、デンドリマー集積法に関する研究を行った。その結果、共役鎖末端置換基の活性化、クリック反応(CuAAC 反応)を繰り返して行うデンドリマー集積法を開発した。この方法を用いて、分子量が三万を超え伸長時の長さが約48ナノメートルの直鎖状八量体を得ることに成功した。デンドリマー集積体の吸収スペクトルは共役鎖がランダム配向した会合体の吸収とよく一致した。さらに、吸収スペクトル形状の溶液濃度依存性は無視できる程度しかなかった。これらの結果から集積体が溶液中において折りたたみ型構造を取ることを明らかにした。 また、ポルフィリンのレセプター機能をアロステリック抑制する研究を行った。刺激認識部、遮蔽部、レセプター部として、3個のビピリジン骨格、2個のジフェニルアントラセン骨格、亜鉛ポルフィリン骨格を有するレセプター分子を設計、合成した。最初に、分子と軸配位子の結合定数を吸収スペクトル滴定により評価した。モル吸光係数変化の軸配位子濃度依存性から会合定数を求め、このレセプター分子の亜鉛ポルフィリンが軸配位子と安定な配位結合を形成することを明らかにした。また、分子の鉄錯体に対しても同様に軸配位子との結合定数を求めた。その結果、鉄錯体形成前の結合定数は、形成後のものと比較して9.5倍大きな値であることがわかった。すなわち、大きなアロステリック抑制の発現に成功した。鉄(II)イオンを加えると3つのビピリジン部位が Fe(II)(bpy)3型錯体を形成し立体構造が変化する。その結果、ジフェニルアントラセンがポルフィリン環上下に配置され、軸配位子との結合が抑制されたと考えられる。また、鉄錯体形成前後において、この軸配位反応の熱力学的パラメータを求めた。その結果、鉄(II)イオンの添加によって軸配位結合が不安定化されている事を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではこれまでに共役鎖内包型デンドリマーを基盤としてポルフィリンを精密に配列することで、優れた機能を持つ光補修アンテナや電荷分離デバイスの開発に成功している。本研究の目的は、これらのデンドリマーを自在に組み合わせて高い相乗効果、協同効果を発揮させることで、高度な機能を持つ光合成モデル分子デバイスを構築することである。本年度の研究成果は、共役鎖内包型デンドリマーを効率的に集積する方法を確立したことである。この集積法では、デンドリマーどうしの結合を代表的なクリック反応であるCuAAC反応によって行っている。この反応は、温和な条件で定量的に進行するだけでなく、さまざまな官能基の存在下においても効率よく進行することが知られている。そのため、本年度の研究成果によって得られたデンドリマー集積法は、高い汎用性を有している。すなわち、今度さまざまな光合成モデル分子デバイスを構築するために必要な基礎技術であるデンドリマー結合法を確立した。この方法を応用することで、すでに開発を終了している光補修デバイスや電荷分離デバイスをさまざまな形状に集積することができる。その結果、本研究の目的を着実に達成することができる。 また、デンドリマー集積体の高次構造を詳細に調べることで、外部環境に応じて異なった高次構造をとることを明らかにしている。デンドリマー集積体の高次構造は、デンドリマー中に配列したポルフィリンの配列変化を伴う。従って、本年度の研究成果によりデンドリマー集積体を応用して外部環境変化に反応して機能が大きく変化する外部刺激応答性分子デバイスの構築へと研究を発展させることができる。デンドリマー集積体の特異な性質を解明したことは、今後の研究の展開において重要な研究成果である。また、外部環境変化に応じて機能が変化する分子の開発にも成功している。この成果を発展させることで研究目的を着実に達成できる。
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今後の研究の推進方策 |
o-やm-フェニレンーエチニレンオリゴマーはらせん型構造、ジグザグ型構造など複数の配座をとる。今後の研究ではo-およびm-エチニレン-フェニレン型共役鎖を利用してポルフィリンの配列制御を行う。ポルフィリンを配列して光捕集を行う場合、励起エネルギーが周辺部から光捕集中心に向けて階層的に小さくなるように配列することが重要である。また、空間をとうした励起エネルギー移動の効率は、色素間距離が長くなると劇的に低下する。o-およびm-エチニレン-フェニレン型共役鎖を内包させることで、共役鎖骨格の配座変化に伴い分岐鎖に導入したポルフィリン間の距離や相互作用の大きさが変化する。ポルフィリン末端に適当な置換基を導入することで、溶媒変化などの外部環境変化に反応して光捕集効率が大きく変化する刺激応答型光捕集アンテナの開発を行う。 また、ポルフィリンを中心にもつ共役鎖内包型デンドリマーを構築し、さらにデンドリマーを集積させる。この時、中心部となるデンドリマーの中心に周辺部となるデンドリマーの中心ポルフィリンよりも励起エネルギーの小さなポルフィリンを導入する。共役鎖内包型デンドリマーから得られる集積体は、溶媒極性や温度の変化により高次構造が折りたたみ型から直線型へと変化することがわかっている。ポルフィリンを中心部に導入したデンドリマーの集積体では、折りたたみ型では周辺部から中心部へと段階的に小さくなる励起エネルギー勾配が形成される。そのため、中心部に励起エネルギーが集まりやすいポルフィリン配列となる。もちろん、周辺色素と中心色素の距離が小さくなる影響も大きい。一方、直線型では中心ポルフィリンに励起エネルギーが集まりにくい配列となる。従って、溶媒極性に反応して光捕集機能が大きく変化する。外部環境変化に敏感に反応して構造変化を起こす高分子を完成させる。
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