研究課題/領域番号 |
23350028
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
高見澤 聡 横浜市立大学, 生命ナノシステム科学研究科, 教授 (90336587)
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キーワード | 錯体化学 / 超分子化学 |
研究概要 |
構造柔軟性を持つホスト固体では、取り込まれたゲスト(分子)の周囲に生ずる微視的な固体構造変化が周囲に伝搬することによって、ホスト固体内のゲスト分布と固体状態分布が強くカップルするものと期待される。本研究では、この固体状態とゲスト分布の強い相関性に着目し、ガス吸着によって構造変化が誘起される単結晶ホストを用いて。固体状態とガス吸着量との相関性を明らかにする実験を行った。初年度であるH23年度研究では、特にガスおよび有機蒸気吸着測定、単結晶X線構造解析、顕微鏡観察を併用してその場観測を行う実験システムを構築した。ガス雰囲気制御の下、様々な蒸気(ガス)および単結晶ホストの組み合わせによって多種の包接結晶を生成させたところ、一つの化合物の結晶ではガス吸着挙動の一次転移的な結晶状態変化挙動と複数相共存状態の観測に成功した。結晶中での複数相の結晶構造を単結晶X線構造解析により解析を行い、単結晶X線構造解析から得られる厳密なミクロ構造とマクロ結晶中で生ずる複数相の生成形態について考察を行い、ミクロ構造とマクロ状態の相関性について明らかにした。この複数相共存状態について、種々ガスおよび蒸気の圧力・温度条件下において追尾し、ガス包接濃度分布の移動(拡散)と相変態速度との相関性を仮定することで、単結晶ホストチャンネル中でのガス拡散係数を算出にも成功した。ガス包接によるミクロ-マクロ状態変遷過程の理解により、ガス吸着挙動および透過挙動の変遷によって期待できるガス分離特性の特徴が明確になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の目標であった、ガス包接によるミクロ-マクロ状態変遷過程の理解により、ガス吸着挙動および透過挙動の変遷の基礎的な知見が得られ、概ね目標は達成できたと考えている。本研究では、観測に必要な実験手法の精査と構築が肝要であり、本年度において、概ね満足できる実験システムの構築と最適化が最も労力の掛かる作業であったが、実際の観測実験に必要な精度があるのを確認できた点が有意義と考えられる。また、実際の実験の過程で観測実験に有利な実験条件が明らかになった点も意義深いと考えられる。炭酸ガスや窒素ガスなどの無機ガスを用いた研究では、ガスの扱いが容易で吸着速度が早いため、ガス包接結晶の生成実験では有利と考えて研究を始めたが、実際に実験を開始してみると本研究の観測には吸着速度がある程度緩やかなガスの有利性が明瞭になった。しかし、有機化合物蒸気は飽和蒸気圧が低く吸着速度が遅いため、蒸気吸着測定は長平衡時間が長く、基礎データとして重要な吸着挙動を観測できるガス吸着測定が計測時間長大を引き起こし、実験上時間的に非常に不利となる。初年度に本補助金で導入したガス吸着装置によってその律速が解けることで、研究進展が早まった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度(初年度)において、本研究の遂行に欠かせない自作の観測システムの構築に成功しており、さらに観測の精密化および観測対象の物質拡張などにより、一般性の高い研究成果を得られるよう工夫していく。実験自体が前例のないものであり、新規性の高い知見を得られるよう研究を推進し、まずは実験の拡張により、間違いの無い科学的に十分な確度をもつ実験結果を得て精密に解析を行い、純粋科学および基礎応用研究に対してよりインパクトの高い研究成果とできるよう実験対象を絞り込むのが本研究の意義を最大限に増大させられるものと考えられる。
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