研究課題
H24年度は、H23年度(初年度)に行ったガス吸着挙動と単結晶X線構造解析によるガス吸着構造の結果をもとに、磁場/電場などの外場中におけるガス吸着構造変化および結晶状態の観測を行った。ガス包接結晶は温度や圧力、およびガス包接量によってミクロ構造変調が誘起されるのは前年度の結果から明らかになっていたが、外場による変調を調べる目的で実験を行った。本実験からは、受動的なガス吸着特性に能動的なガス吸着状態変調操作性を導入し、好みのガス吸着特性を外場により操作する手法になり得るものであった。そこで、ガス雰囲気制御の下、様々な蒸気(ガス)および単結晶ホストの組み合わせによって多種の包接結晶を生成させ、外場の及ぼす影響について調べた。常磁性および大きな永久双極子モーメントをもつゲストガス分子を選択し、実験を鋭意行ったが、磁場/電場中での結晶構造解析ではが相変態に与える影響について単結晶X線構造解析およびガス吸着測定において鋭敏かつ明々白々に判別できる挙動は観測できなかった。しかしながら、その実験過程で偏光顕微鏡観察では外場によって結晶状態変化が明瞭に観察される単結晶ホストが一つ見つかった。この結晶は外場下でも結晶癖が安定であり、複数相共存下でも結晶内部の破損等は見られず、再度単結晶X線構造解析結果とガス吸着挙動の精査を行った。その結果わずかであるが変調の兆しを見いだした。しかしながら差の有意性については多くの同様の結晶ホストでの検証が必要と考えられた。そこで、このような外場感受性の高いガス包接結晶を生成できる新規単結晶ホストの新規合成にも着手し、複数の単結晶ホストの獲得に成功した。
2: おおむね順調に進展している
H24年度の目標であった外場(電場・磁場等)による包接結晶状態の変調誘起の観測に成功した。しかしながら、科学的な確度としては十分に高い結果とはいえない問題が依然として残っている段階にある。一方で、新規に複数の単結晶ホストの獲得にも成功しており、実験対象数を増やし、より明瞭な結果が得られるものがその中から見いだせるものと期待している。単結晶X線構造解析は、精密な解析ができる一方で、わずかな実験条件の変化に影響を受けやすい特性があるため、結晶構造解析でかなりの時間を費やす必要があったため、年度前半は期待通りには実験が進まなかったが、顕微鏡下観測の有効性が明らかになってからは、実験条件の最適化がスムーズに行えるようになり、研究が進み出した。また、電極上あるいは強力磁石上でサイズの小さい単結晶を用いる手作業による実験の多用によって、実験難易度がきわめて高いという困難さがあったが、治具の作成などで実験を素早く進められる状況に至っている。また、単結晶X線構造解析では厳密なデータが得られる一方で結晶状態の変調による結晶性の低下を回避できる実験条件の最適化も達成できたと考えている。新しい材料特性およびガス分離機構の特許申請を先行して進めており、申請後速やかに論文発表を行う予定である。
本年度(2年度)において、外場(電場・磁場等)による包接結晶状態の変調誘起について観測結果を蓄積したが、鋭敏な変化は見られないことが分かった。これは、単結晶X線構造解析およびガス吸着測定の双方共に平衡状態の平均構造および平均吸着量の測定であり、局所状態変調の分布が顕在化できない測定である可能性が高い。来年度(最終年度)は、本研究の究極目的でもある時空間的なガス分離挙動について、これまでに確立した実験手法および獲得した知見を駆使してガス膜透過分離実験を行い、局所的な揺らぎを能動的に誘起し、ガス分離特性の変調を発現させる実験を行う。また、最終年度となるため、研究の総括を行う。純粋研究の観点からは、外場によるガス包接結晶特性変調の誘起挙動についてガスおよび蒸気吸着測定から熱的な解釈を行い、エネルギー論の観点から現象理解を行う。また、応用基礎研究の観点からミクロ構造変化と拡散変調の相関を考察し、分離特性変調型のガス分離機構を提案し、機構応用への展開を目指す。
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10.1016/j.jallcom.2011.12.171]