研究概要 |
(1)一連の[PdAr(μ-O2CR)(PPh3)]n型錯体(1:Ar=Ph,2-MeC6H4,2,6-Me2C6H3;=Me,tBu,CF3;n=2,4)を合成単離し,それらが種々のヘテロ芳香族化合物(Ar'H)と反応し,対応する直接的アリール化生成物(ArAr')を収率良く与えることを見いたした.Ar'Hとして2-メチルチオフェンを用いた場合に,反応は錯体(1)と2-メチルチオフェンの濃度にそれぞれ1次であった.興味深いことに,Ar基が大きいほど,またR基が小さいほど,反応速度は向上した.単結晶X線構造解析と赤外吸収分析により,固体状態において二量体あるいは四量体構造を有する錯体(1)は,溶液中において,二座キレート型カルボキシレート配位子をもつ単量体錯体[PdAr(O2CR-κ20)(PPh3)](2)との平衡状態にあり,Ar基が大きいほど単量体錯体(2)の比率が高くなることがわかった.以上の結果をもとに,錯体(2)を活性種とする直接的アリール化反応機構を提案した. (2)一連の[Pd(4-YC6H4)(μ-Br)L]2型錯体を触媒に用いて,2-ブロモ-3-ヘキシルチオフェンの頭尾選択的重合を行えることを見いだした.この反応では,生成するポリ(3-ヘキシルチオフェン)(P3HT)の重合末端に4-YC6H4基を導入することが可能であり,4-YC6H4Brを重合系に添加することにより,86-98%の選択性で末端官能基化P3HTが合成できた.また,生成ポリマーの分子量は,モノマー添加率に比例して増加した.この結果は,直接的アリール化反応を用いて,連鎖型縮合重合が行える可能性を強く示唆するものである. (3)協奏反応の微視的可逆性の原理をもとに,ジアリール白金錯体とカルボン酸との反応について検討し,白金(II)錯体を中間体する反応機構の存在を明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
従来ほとんど報告例のなかった,芳香族C-H結合の直接的アリール化に反応活性なアリールパラジウム錯体の合成に成功した。また,2-ブロモー3-ヘキシルチオフェンの頭尾選択的重合に触媒活性を示すアリールパラジウム錯体の合成に成功した.これらの成果は,本研究が目標とする,(1)C-H結合アリール化機構の解明,(2)well-defined触媒の開発,(3)連鎖型重縮合(リビング重合)への展開,の3項目を達成するための確かな根拠となるものである.
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今後の研究の推進方策 |
本研究の2年目となる平成24年度においては,初年度に見いだした触媒反応中間体モデルに,速度論的手法とDFT計算を組み合わせて,反応機構についてさらに詳細な情報を収集し,well-defined触媒と連鎖型重合反応の実現に向けた研究を加速する.本研究はきわめて順調に進展しており,研究計画に変更の必要はない.
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