研究課題/領域番号 |
23350053
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
伊津野 真一 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50158755)
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研究分担者 |
原口 直樹 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30378260)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | イオン結合型キラル高分子 / シンコナアルカロイド / 有機分子触媒 / 高分子不斉触媒 / 第四級アンモニウム塩 |
研究概要 |
有機分子触媒を用いる反応は、環境融和型有機合成において欠くことのできない手法となっている。しかしながら、遷移金属触媒などに比べると触媒活性が引く場合が多く、一般に必要とされる触媒量が多い。特に第四級アンモニウム塩などのイオン構造を有する有機分子触媒は、両親媒性の性質を有しているため、これらの化合物を相当量使用すると、反応後の分離に困難を伴い目的物の単離にも支障をきたすことがある。このような問題を解決するための方法として、触媒の高分子化が有効である。高分子化された触媒は、溶解性などの物性が低分子の触媒と大きく異なることから、反応系からの分離は容易に行うことができる。本研究では新しいキラル高分子触媒として「イオン結合型キラル高分子」に注目し、その合成法と、不斉反応への応用について検討を行ってきた。「イオン結合型キラル高分子」は、繰り返し構造単位がイオン結合で結合されたキラル高分子であり、これまで報告されていない。本研究では、キラル第四級アンモニウム塩二量体とジスルホネートとのイオン交換反応による新しい重合法の開発に成功した。 キラル第四級アンモニウム塩二量体とジスルホネートとの組み合わせを用いれば、イオン結合によって繰り返し単位を結合した高分子が生成する。不斉触媒能を有する様々な構造を有するキラル第四級アンモニウム塩を合成し、高分子に組み込むことによって、キラル高分子の不斉反応に及ぼす影響を詳細に検討した。キラル第四級アンモニウム塩二量体には、多くの不斉反応に利用可能な、シンコナアルカロイド誘導体を用いた。シンコナアルカロイドの水酸基、二重結合、キノリン環は、種々の化学修飾が可能である。水酸基に関しては、エーテル、エステル構造、二重結合については、SH, SiH, などの付加反応、を利用して、様々な構造の二量体構造の構築に成功している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
重要な不斉有機分子触媒の一つとしてキラル第二級アミン及びその塩も多くの不斉反応に用いられている。この構造を高分子主鎖に組み込むことは困難かと思われたが、第二級アミンとスルホン酸との酸‐塩基反応を使って容易に重合できることを突き止めた。この重合反応についてもキラル第二級アミン二量体について種々の構造を検討した。アミノ酸から誘導したキラルイミダゾリジノンは二級アミン構造を含み、様々な不斉反応を触媒する有用な有機分子触媒である。不斉Diels-Alder反応に応用した結果、低分子触媒を大きく上回る触媒活性を示すことが分かった。 シンコナアルカロイドおよびその誘導体は、様々な不斉反応の有機分子触媒として高度な触媒活性を示すものが多い。これらを高分子化する手法として、これまでに開発を進めてきた「イオン結合型キラル高分子」だけでなく、「共有結合型キラル高分子」についても新しい重合法の検討を行った。その一つが、「Mizoroki-Heckカップリング重合」である。シンコナアルカロイドの二重結合はPd触媒存在下、ハロゲン化アリールと容易に反応することが分かった。副反応が起こることなく、ほぼ定量的に反応が進行するので、この反応をシンコナアルカロイドの二量体と芳香族ジハライドとの間で行うと、対応するキラル高分子を生成することを突き止めた。
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今後の研究の推進方策 |
「Mizoroki-Heckカップリング重合」により、初めてシンコナアルカロイドを繰り返し単位として有する共有結合型キラル高分子を得ることに成功した。これまでに検討した重合では、シンコナアルカロイドの二量体と芳香族ジハライドの組合せを用いたが、シンコナアルカロイドにハロゲン化アリールを導入することができれば、1分子自己縮合型での重合が可能である。ハロゲン化アリールを導入法としては、キヌクリジンへの四級化反応、を利用する方法、第二級水酸基にエーテル結合、エステル結合で導入する方法を検討する。 また、シンコナアルカロイドの二重結合を三重結合に変換することは容易にできる。三重結合も有用な官能基であり、種々のカップリング反応が知られている。これらカップリング反応を利用できれば新しいキラル高分子の構築が可能である。例えば、「Sonogashiraカップリング重合」について検討する。Sonogashiraカップリングはアセチレン類とハロゲン化アリールとのカップリング反応に適しており、上記の「Mizoroki-Heckカップリング重合」と同様にシンコナアルカロイドを主鎖に組込んだキラル高分子を合成するための有効な手法になると考えられる。 上記のカップリング反応は、キラル高分子触媒の合成に用いることができるが、シンコナアルカロイドの二量体形成にも重要な反応として利用できる。これら二量体の第四級アンモニウム塩は、キラル有機分子触媒として多くの不斉反応を触媒する可能性が高い。これらを高分子に組込むための最も簡便かつ有用な方法は、我々の開発した、「イオン結合型キラル高分子」である。カップリング反応により合成したシンコナアルカロイド第四級アンモニウム塩型二量体をもとに、ジスルホネートとの間のイオン結合による重合反応を検討するとともに、得られたキラル高分子の不斉触媒活性について詳細に検討を加える。
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