研究課題
本研究では,界面分子構造に敏感な二次非線形振動分光法の和周波発生(SFG)や原子間力顕微鏡(AFM)を用い,細胞膜の界面構造と機能性発現との関連性について解明することを目的とする.特に従来の研究に用いた基板や標識色素による影響をなくすため,細胞の接着・増殖・組織化等において重要とされる細胞外基質(ECM)の表面に脂質二分子膜を構築し,その構造や配向,安定性を明らかにするとともに,酵素等の生体分子との反応に伴う細胞膜の構造変化及び反応機構を調べる.これらの研究成果に基づき,ECM 表面に接着される活細胞の細胞膜の界面構造を調べ,細胞の機能性との関係解明を目指す.PDDA 等のカチオン性高分子電解質材料とPSS などのアニオン高分子電解質材料を,固体基板表面に交互に析出させ,基板表面を修飾する.高分子電解質水溶液の濃度や支持塩濃度,浸漬時間,乾燥時間などの作成条件を最適化し,安定な薄膜形成を試みた.SFGとAFM測定でこれらの高分子電解質薄膜表面の分子構造を評価した.この他に,共同研究者から細胞接着特性に優れた合成機能性高分子材料の提供も受け,ECMとして活用する可能性について検討始めている.このように修飾された界面に脂質二分子膜を構築し,膜の界面構造と分子配向に加え,その安定性についても調べた.特にリン脂質分子のフリップ・フロップ速度や加水分解酵素PLA2の触媒反応速度への影響についても検討した.さらに,疏水鎖に不飽和官能基をもつ脂質分子の単一また混合二分子膜を構築し,その膜の界面構造についても調べ.空気中での安定性を影響する因子について詳しく検討した.
2: おおむね順調に進展している
本研究では,細胞培養により近い環境下で,細胞の接着・増殖・組織化等において重要とされる細胞外基質(ECM)の表面に脂質二分子膜を構築し,その構造や配向,安定性を明らかにするとともに,酵素等の生体分子との反応に伴う細胞膜の構造変化及び反応機構を調べ,細胞膜の界面構造と機能性との関係解明を目指す.ECM膜の構築につきまして,(1)高分子電解質材料による積層法.PDDA 等のカチオン性高分子電解質材料とPSS などのアニオン高分子電解質を一層ずつ積層(Layer-by-Layer, LbL法)することで,固体基板の修飾を試みた.(2)種々のシクロデキストリンを含むポリロタキサン型のブロック共重合高分子材料の提供を共同研究者から受け,固体基板表面の機能性の向上を試みた.(3)様々な末端官能基をもつ自己組織化単分子膜(SAM)による修飾方法.様々な条件の検討を通じて,これらの手法で安定な膜形成が実現されており,固体基板の固有の性質を抑えると同時に,ユニークな膜の機能性が現れていたので, ECMに模倣できる構造ができており,概ねに順調に進展していると判断する.ECM表面の構造評価について,SFGやAFM分光法により積極的に行い,膜表面固有の構造の形成と機能性発現が確認できており,様々な目的に応じての応用が期待できた.モデル細胞膜として,飽和リン脂質分子であるDPPCやDPPE,不飽和リン脂質分子DOPCなどを用い,ベシクフュージョン法やフュジュンLB 法により二分子膜を構築し,膜の界面構造と分子構造と安定性について詳細に調べた.二分子膜のフリップ・フロップ速度,酵素との触媒反応速度,さらに不飽和結合の影響について詳しく検討したため,概ね順調に進展していると判断する.
界面分子の絶対配向について決定に活用できる位相敏感和周波発生システムを構築し,より詳細にモデルECM膜界面の分子構造について解明する.高分子電解質膜界面の分子構造を解明する.特に交互に析出した高分子電解質膜界面の水分子の構造や時間変化についてさらに追跡していく予定.また,素晴らしいタンパク質の吸着特性を示すメチルしたα-シクロデキストリン(α-CD)を含むポリロタキサン型のブロック共重合高分子材料の界面構造について詳しく検討し,コントロール材料を比較し,二分子膜の構築条件やタンパク質の吸着挙動について,界面分子構造の視点による議論を試みる.ECM構築と脂質二分子膜構造の関係に関する理解を深める.このようにECM表面に形成した脂質二分子膜を,血清を含む種々の細胞培養培地に入れて,その構造変化についてその場で調べる.特に血清に含まれる細胞成長因子や金属結合タンパク質などの生理活性物質の吸着,または吸着に伴う二分子膜の構造変化について,SFG分光法によって測定し,血清の主要成分と脂質二分子膜との相互作用について評価する.無血清培地を用い,既知の細胞成長因子または分化促進因子,毒化物質などを意識的に選んで培地に入れ,脂質二分子膜との相互作用について詳細に検討する.また,血清に含まれる細胞成長因子や金属結合タンパク質との相互作用に伴う脂質分子のキラリティ-の変化について,SFG分光法により追跡する.
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件) 学会発表 (8件) (うち招待講演 4件)
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