研究課題/領域番号 |
23350059
|
研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
山路 稔 群馬大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20220361)
|
研究分担者 |
岡本 秀毅 岡山大学, 自然科学研究科, 准教授 (30204043)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | 有機超伝導材料・素子 / 有機半導体 / 有機光化学 / グラフェン / 太陽光増感色素 |
研究概要 |
ベンゼン環の数(n)の増加に伴いカリウムドープした芳香族縮環化合物の超伝導転移温度が上昇することが近年明らかになっている。このためピセンよりもn数が大きい(n>5)フェナセンを作成する必要がある。そこでn=6のフェナセン(フルミネン)をフェナンスリルナフチルエテンから光縮環反応により作成した。カリウムドープしたフルミネンでは超伝導体性を確認するに至らなかった。一方,フルミネンの薄膜状態での電荷移動度μを測定したところ,3.7 cm-2 V-1 s-1という値を得た。この値はピセンの値を超えている。このことからフェナセンはn数の増加に伴い,効率の良い半導体性を示すことが判った。フェナントレンからフルミネンまで系統的にフェナセン類を作成する事が出来た。これらの光化学的・光物理的性質を測定し,励起状態のエネルギーおよび吸収スペクトルの極大波長はnの関数で表されることを明らかにした。これらの成果は,ベンゼン環数nが大きなフェナセンの光化学的・光物理的性質を予測する事が可能になり,分子設計の指標となる事が期待される。 大きなn数を有する芳香族化合物を効率的に作成するために,複数の縮環部位を有する前駆体を準備し,その光縮環反応を試みた。1,3,5-トリブロモメチルベンゼンのホスホニウム塩に対し,ベンズアルデヒドおよびナフトアルデヒドをWittig反応で準備した光反応前駆体を準備し,直接光照射を行う事によりそれぞれの縮環化合物を3%と6%の収率で得た。これらの光化学的・光物理的性質を測定したところ,n数が異なるにもかかわらず非常に類似していることがわかった。この類似性は非平面的な分子構造に由来する為と結論された。この2つの化合物の半導体性・超伝導性は現在検討中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は有機超伝導体および半導体の性質を示す縮環化合物を創製する事である。今年度までに,有機半導体として従来知られているアセン類のペンタセンと比べて電荷移動度と安定性が優れたピセンおよびフルミネンの効率的な光反応生成過程を見出してきている。また,フェナントレンからフルミネンまでの一連のフェナセン類を系統的に作成したことにより,これらの化合物の光化学,光物理的な性質を系統的に明らかにすることに成功している。これらの成果はベンゼン環数がフルミネンよりも大きなフェナセンを作成する際の指標として利用する可能性が期待され,新たな有機半導体素子を開発する可能性が高まってきた。これらの研究成果から有機半導体を創製する目的では概ね目標を達成していると考えている。一方,超伝導体に関しては,カリウムをフルミネンにドープしても超伝導性を確認するに至らなかった。分子に含まれるベンゼン環数に比例して超伝導転移温度も上昇すると考えられるため,よりベンゼン環数の多い縮環化合物を作成することが有機超伝導物質の開拓に重要と考えられる。我々はトリベンゾ[c,i,o]トリフェニレンとC3-トリナフトトリフェニレンの作成を試み,収率が低いながらも創製に至った。しかし,生成物の収量が少ないこととカリウム等のアルカリ金属をドープして超伝導体を作成する工程は時間がかかるため,今年度内に超伝導性の確認に至らなかった。
|
今後の研究の推進方策 |
縮環化合物の有機超伝導体を開発する1つの方針として,分子に内在するベンゼン環数nを多く持つ様に分子を設計することが考えられる。従来,フェナセン類を光縮環法で作成する場合,アリル基2つを縮環部位1つで連結した構造を有する光反応前駆体を用いてきた。大きなアリル基はその前駆体の有機溶媒に対する溶解度を低下させるため溶液中の光縮環効率が低下し,大きなフェナセンを作成する事が困難になってくる。この問題を解決するため,複数の小さなアリル基と複数の縮環部位を有する光反応前駆体を準備し,1つの分子内で複数の光縮環反応を起こし,よりn数の大きい縮環生成物を作成する事を試みる。これらのプロセスにより一段階ずつ光縮環反応を行っていたプロセスを一度にまとめて行う事が可能に有り,化合物の準備する時間の短縮が図られると期待する。 光縮環法では化合物に直接光照射を行う方法と,光増感剤を用いる方法が可能である。これまでは照射プロセスが簡単な直接照射法を用いてきた。直接光照射を行った星形化合物作成では目的物生成効率が極端に低く,これがその後の物性評価に影響を及ぼした。低収率の原因として光照射による光前駆体の分解過程が縮環過程と競合することが懸念される。この過程を払拭するために光増感法を用いて収率と収量の向上を試み,化合物の半導体性・超伝導体性測定試料の作成を容易に行えるようにする。一方X線結晶解析を用いて星形生成物の分子構造を明らかにし,電気伝導性との関連を明らかにすることにより,効率の良い有機半導体・超伝導体化合物の設計指標を示すことを目指す。
|