研究課題/領域番号 |
23350066
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研究機関 | 大阪教育大学 |
研究代表者 |
辻岡 強 大阪教育大学, 教育学部, 教授 (30346225)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | フォトクロミズム / ガラス転移 / 金属 / 真空蒸着 / 表面 |
研究概要 |
本研究は、光照射によって可逆的に色が変化(光異性化)するフォトクロミック・ジアリールエテン(DAE)表面における金属蒸気原子の選択的な堆積・離脱現象(金属蒸着選択性)に関連して、特にガラス転移点(Tg)が低い表面における金属原子の振る舞いを調べること、およびその現象の産業面への応用を探ることを目的としている。 室温付近の低Tgである消色状態DAEを数nmレベルの膜厚でSi基板表面に形成し、アニールによりアイランド化した表面上にMgを蒸着することで、金属Mg原子の拡散・離脱・堆積現象を調べた。Mg膜はDAEアイランドを避けて成長する様子が原子間力顕微鏡(AFM)によって観察されたが、これはMg原子が表面を拡散しDAEアイランド部で離脱することを示しており、DAE表面とMg原子との相互作用が顕著に弱いことを示している。 DAE表面における金属蒸着選択性は金属種により大きな差があることがわかっている。前年度は基板加熱(40℃)によりPbに対して同現象が発現することがわかったが、今年度は新たにAgに対する影響を調べた。Pbの時と同様に基板加熱(50℃)を行っても完全な蒸着選択性が得られなかったが、得られた膜の電気抵抗が7桁近い差を有することが判明した。これはDAE表面におけるAg膜を構成する微結晶のサイズ・密度に、異性化状態に依存して大きな差が生じているためである。またこの電気抵抗の差を利用した新構造の電気ヒューズを考案し、試作も行った。 さらにこの金属蒸着選択性の拡張性の研究として、異なるTgを有する相分離ポリマーブレンド膜表面でのPb蒸着選択性や、コーヒーリング効果によって得られたポリスチレン膜表面での金属蒸着性変調の研究を行った。特に後者は、単一種の有機材料であってもその作成方法によって表面Tgが変化し、金属の蒸着性に影響を与えるということを初めて示したものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
DAE表面において、従来室温ではまったく差が見られなかったAgにおいて、基板温度を上げることで電気抵抗に7桁もの違いが生じることが見出された。これにより従来とは異なる新構造の電気ヒューズへの応用展開の可能性が拓けた。また光異性化によりTgが変化するDAE以外にも、単一の高分子種において膜作成条件に依存して顕著に金属蒸着性が変化することを発見した。これは現在発展が著しいポリマーエレクトロニクス分野において、マスクレス蒸着による微細電極パターン形成などに応用できる可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
低Tg膜表面における金属原子の拡散は、本現象を微細金属パターン形成に応用使用する際にその解像度に影響するため、その距離を見積もっておくこと、それに影響するパラメータを明らかにしておくことは重要である。そこで様々な金属種において、その拡散距離を明らかにする手法を検討する。 DAE材料は有機半導体メモリ材料として有望であり、また一般にアモルファスではなく結晶状態は高いキャリア移動度が期待できるので、DAE結晶は今後有機エレクトロニクス材料として期待できる材料であるといえる。DAE結晶表面においてはこれまでMgの蒸着選択性だけが確認できていたが、他の金属種に対する蒸着選択性の可能性も追求する。
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