研究概要 |
個々の分子が磁石として振舞う単分子磁石(Single Molecule Magnet,SMM)を研究対象とし,その設計指針の開拓を目指した研究を行った.希土類金属イオンを含むSMMについての研究は2004年以降盛んに行われている.分子の磁気モーメントを一方向に保持するための強い磁気異方性の発現について,大きな全角運動量を有するf金属イオンの利用が有効であるため,希土類金属イオンに注目が集まっているのである.2010年から2011年にかけ希土類イオンを含むSMM研究は世界的に加速されているが,磁気特性,特に磁気異方性の制御に関して明確な指針を明示した例はほとんどない.そこで,本年度は重希土類イオン全般を対象とし,磁気異方性発現の詳解と,分子設計による制御を目指した研究を展開した. 常磁性の三価の重希土類イオンとしてTb,Dy,Ho,Er,Tm,Ybが知られている.この順に4f電子が増加し電子構造も変化するため,それぞれについて理論的な考察を行いながら分子設計を行った.個々の金属イオンにおけるStark副準位の電子雲の空間的広がりに着目し,金属イオンが異方的な結晶場中におかれた際に生じる結晶場からの静電反発を精密に考察し,それぞれの副準位の相対的な安定化・不安定化を検討した.Ising性の強い副準位が安定化されるときに分子全体として容易軸型異方性が発現すると仮定し,等構造の一連の錯体について磁気特性を測定し,比較検討を行った.その結果,SMM特性の発現につながる容易軸型磁気異方性の有無と金属イオンの配位構造の間に明確な相関を見出した.これは偶然によらず,分子設計によって磁気異方性設計の可能性を明確に示すものであり,今後のSMM設計の指針を与える結果でもある.また,この指針を軽希土類イオンに応用することにより,世界初の軽希土類単分子磁石Ce(III)-SMMの合成にも成功した.
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究成果により,研究対象が希土類金属全般に拡張された.これに伴い,従来の分子設計の指針が重希土類金属イオンだけではなく希土類金属イオン全般に一般化されたとともに,対象とする金属錯体のバリエーションが著しく拡張された.物質合成だけではなく,物性の理論,解釈についても新たな展開が必要となってきている.特に,磁化反転のダイナミクスに関する物性研究の展開が今後の課題となった.
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