収縮、発生、分化、増殖、分泌、学習、記憶などに関係する生物細胞の各種機能を制御する活性物質を、光照射により自在に放出させるための分子であるケージド化合物の高性能化研究の一貫として、生理活性物質であるグルタミン酸を光反応により放出するケージド化合物の創成を目指して研究を行った。光吸収部位としてカルバゾールやアントラセンなどの骨格を有し、それらの部位とピリジニウム部位をメチレン鎖で連結し、さらに、ピリジニウム部位にグルタミン酸誘導体を置換した化合物を合成した。これらの化合物では、光照射により、芳香環部位からピリジニウム部位に電子移動が起こり、それを引き金にして、分解反応が起こり、グルタミン酸を放出することが期待された。実際の実験結果から、光照射によりグルタミン酸の放出は起こるが、極めて効率が低いため、効率の向上を目指して、さらに、いくつかの取り組みを行った。上記の化合物でケージド化合物としての性能が悪いのは、光誘起電子移動により生成した電子移動ペアーから分解反応によるグルタミン酸放出前に逆電子移動が起こるためと考えられた。従って、逆電子移動を抑制するため、三重項を経由した電子移動系を構築することを考えて光吸収部位をベンゾフェノン誘導体や類似の芳香族カルボニル系化合物にした化合物を合成した。また、光吸収部位と電子捕捉部位をつなぐメチレン鎖の長さを変化させ、分解反応の効率を高める検討も行った。このように、異なるタイプの電子移動系ケージド化合物を合成し、分子内電子移動反応を経由する生理活性物質放出機能について、光機能部位の励起エネルギー、酸化還元電位、分子構造などが及ぼす光化学反応性、反応効率に対する効果などを研究し、電子移動増感系を用いた新しいタイプのケージド化合物の創成を行った。
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