研究課題/領域番号 |
23350084
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研究機関 | 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(岡崎共通研究施設) |
研究代表者 |
青野 重利 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(岡崎共通研究施設), 岡崎統合バイオサイエンスセンター, 教授 (60183729)
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キーワード | センサータンパク質 / 酸素センサー / ヘムタンパク質 / シグナルトランスデューサー / 走化性制御系 |
研究概要 |
バクテリアの走化性制御系においては、シグナルトランスデューサータンパク質(MCP: Methyl-accepting Chemotaxis Proteinとも呼ばれる)が誘引物質や忌避物質などの外部シグナルに対するセンサーとして機能している。MCPのN末領域には外部シグナルをセンシングするためのセンサードメインが、C末領域には外部シグナルを感知した後の細胞内シグナル伝達に関与するシグナリングドメインが存在している これまでの研究で、大腸菌の酸素に対する走化性は、フラビン含有PASドメインをセンサードメインとする膜結合型MCPであるAerにより制御されていることが報告されている。本研究では、緑膿菌中には、大腸菌Aerのホモログと推定されるMCPが2種類(AerおよびAer2)存在しており、緑膿菌由来のAer2がヘム含有PASドメインを有する新規な酸素センサータンパク質であることを見出した。 Aer2の構造機能相関解明のため、まずAer2の発現系を次のような手順で構築した。緑膿菌のゲノム配列情報を基に、aer2遺伝子を人工合成した。その際、大腸菌中での発現効率上昇を期待して、大腸菌のコドン使用頻度に合わせて塩基配列を変更したaer2遺伝子を合成した。発現ベクターとしてはpKK223-3を使用し、tacプロモーター下流に、C末端に6 x Hisタグを付加するよう設計したaer2遺伝子を挿入した。発現用宿主には大腸菌DH5αを使用した。培養は、0.5 mM δ-アミノレブリン酸を添加して行った。このようにして構築した発現系を用いることにより、組換え型Aer2を効率よく発現させることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、ゲノム配列データの解析により、新規な酸素センサータンパク質であるAer2を発見した。Aer2は、バクテリアの酸素に対する走化性制御系において酸素センサーとして機能するシグナルトランスデューサータンパク質であり、酸素センサードメインとしてヘム含有PASドメインを有していることを明らかにした。これまでに報告されているシグナルトランスデューサータンパク質において、ヘム含有PASドメインを有しているものは知られておらず、本研究で発見したAer2が世界で最初の例である。本研究では、大腸菌を用いたAer2の発現系構築を行い、Aer2の効率的な発現系の構築に成功している。また、発現したAer2の精製法の検討も行い、分光学的測定に利用するための希薄な濃度の試料については、ほぼ均一な状態にまで精製することに成功した。本試料を用いて、紫外・可視吸収スペクトル、共鳴ラマンスペクトルの予備的な測定も行い、良好なSN比でスペクトル測定が可能であることを確認している。さらに、結晶構造解析用のタンパク質単結晶化用の試料調製も試みたが、試料を濃縮する過程においてタンパク質の凝集が観測されたため、現在、Aer2の凝集が起こらない条件の検討を続けているところである。
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今後の研究の推進方策 |
新規な酸素センサータンパク質であるAer2による酸素センシング、ならびに酸素をセンシングした後のシグナル伝達反応の詳細な分子機構を解明するためには、Aer2の構造情報を得ることが必要不可欠である。そこで、Aer2の結晶構造解明に重点をおいて研究を進める。Aer2が濃縮過程において凝集し易い性質をもっていることが分かったので、アミノ酸変異の導入、一部ドメインの切除等により、より結晶化しやすい試料の調製を試みる。また、結晶化にあたっては、Aer2中のヘムの酸化状態、および外部配位子を系統的に変化させた組合わせで結晶化を試みる。さらに、紫外・可視吸収スペクトル、共鳴ラマンスペクトル等の分光学的測定を行い、Aer2中でセンサー本体として機能すると考えられるヘムの詳細な性質の解明を行う。
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