乳酸菌Lactococcus lactis中に含まれる新規なヘムセンサータンパク質HrtRを見出し、その構造機能相関の解明を行った。HrtRは転写調節因子として機能し、そのDNA結合能は、ヘム分子の結合•解離により制御されている。すなわち、ヘムを結合していないアポ型HrtRが標的DNAに対する特異的結合能を有しており、HrtRにヘムが結合することにより、その特異的DNA結合能が失われ、標的DNAから解離する。蛍光偏光度解消実験の結果、標的DNA・アポ型HrtR複合体の解離定数Kdは、0.2 nMであることが分かった。 アポ型HrtRによる標的DNAの認識機構を明らかにするため、標的DNA・アポ型HrtR複合体の結晶構造解析を行い、その構造決定に成功した。本複合体の結晶には、15塩基対のDNA断片(センス鎖の配列:5’-ATGACACAGTGTCAT-3’)を用いた。N末領域がDNA結合ドメインを構成しており、Tyr50の側鎖とチミン12との間で、CH-π相互作用が、Arg46の側鎖とグアニン11の間で水素結合が観測された。DNA中の塩基と相互作用しているのは、Tyr50とArg46の二残基のみであった。また、これら二つの側鎖(Arg46とTyr50)間にも水素結合が観測された。His37、Arg46、およびTyr50の側鎖、ならびにIle35、Met36の骨格アミド基は、DNA骨格のリン酸基との間で水素結合を形成していることも分かった。Arg46あるいはTyr50に変異を導入したR46A、Y50F、Y50A変異体は、いずれも特異的なDNA結合能を失っていることが分かった。これらの結果より、HrtRによる標的DNA配列の認識、および特異的DNA結合能発現には、Arg46とTyr50の存在が必須であることが分かった。
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