研究課題
基盤研究(B)
太陽電池色素・光化学治療用増感剤・疾患診断センサー用マーカー・偽造紙幣防止用インクなど、様々な応用が期待できる近赤外領域に強い吸収を持つ色素の開発を行なった。今年度合成に成功した主な分子と、その特徴を以下に列挙する。フタロシアニンについては、1)一般的な長波長化の手法である芳香環の縮環を行なわず、置換基効果のみでの大幅な長波長化に挑戦し、中心に15族のリンを誘導体において主吸収が大幅に長波長シフトし、1000nmを越えることを示し、かつ縮環フタロシアニンにおいてしばしば問題となる安定性の問題も解決できることを明らかとした。2)また同時に、フタロシアニン骨格にひずみを導入するアプローチによっても、主吸収波長を930nmとすることに成功している。3)更にフタロシアニン誘導体の長波長化に関して、骨格自体を拡張させるアプローチにも成功している。すなわち、フタロシアニン骨格を長方形型に拡張した二核錯体の合成に成功し、この化合物が900~1200nmの幅広い領域に強い吸収を持つことを示した。また、分子ターゲットをフタロシアニンに限定せず、その他のπ共役系に対しても長波長化の検討を行い、次のような成果を得ることができた。4)強い蛍光特性を持つことが知られるホウ素錯体、BODIPYに対し、芳香環を縮合し共役系を拡張させるアプローチにより、主吸収および蛍光を約700nmにシフトさせることに成功し、かつアンモニアに対する特異的なセンサーとなりうることを示した。5)ピロール環8個が環状に連結したポルフィリン誘導体の合成に成功した。これらの分子は約1100nmにおいて吸光係数が15~24万と高い値を示した。6)ポルフィリンに小芳香環が縮環したフェナンスロポルフィリンを合成した。この分子は1000nm付近に強い吸収・蛍光を有し、光化学治療用増感剤や疾患診断センサー用マーカーへ応用できる可能性を示した。以上の結果はいずれも一流の国際誌に掲載済みであり、1)3)が米国化学会誌、2)5)が独国応用化学会誌、4)が英国化学会速報誌、6)がヨーロッパ化学雑誌に採用された。
1: 当初の計画以上に進展している
今年度は震災の影響で実験室の稼働までに時間がかかったが、当初の計画より多くの成果を得ることができた。本助成金を頂く以前に十分な構想期間があったことが大きく、今年度に結実した結果であると考えている。また、合成・物性評価において、国内外の研究者のサポートをいただけた点も重要な理由であり、これらがあってはじめてできた結果であると言える。
以下の事に重点をおいて研究を推進する。1)巨大芳香環化合物は一般的に酸化条件に弱く、耐久性が要求される用途において問題になっている。今回分子軌道のデザインにより、この問題を克服できる端緒を開いたので、これを更に推し進めた新規色素の開発を行なう。2)生体系への応用には、化合物の水溶性は必須の条件である。そこで今回開発した近赤外化のためのアプローチ法を元に、水溶性を付与した分子の開発を行なう。3)実用化を考慮した際、合成が短工程、高収率で行なえることも重要な要素である。分子デザインにおいてはこれらの点も考慮に入れ、必要に応じて新たな合成法の開発も行なう。
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