研究実績の概要 |
本研究の目的は、ヘキサトリエン-シクロヘキサジエンの変換に基づくフォトクロミック化合物のヘキサトリエン部位の立体配座を、(1)環化しやすい配座に保つこと、(2)ヘキサトリエンのラセン不斉を制御すること、によって制御し、高い光環化量子収率と高い立体選択性を合わせ持つ化合物を得ることを目的とする。立体配座の制御は、フォトクロミック分子とその光反応環境場の相互作用を適切に設計することにより行う。ヒト血清アルブミン、DNAを光反応環境場として用いたところ、ヒト血清アルブミンを用いた場合に良い結果が得られた。そこで、本年度はその絶対立体配置の決定も試みた。 我々はすでに1,2-bis(5-hydroxymethyl-2-methyl-3-thienyl)hexafluorocyclopentnene (A)がHSA中-4℃で(S,S)の絶対立体配置をもつ環化体を71% eeのエナンチオ選択性を与えることを報告した。また1,2-bis(5-carboxy-2-methyl-3-thienyl)hexafluorocyclopentene (B)と1,2-bis(5-carbomethoxy-2-methyl-3-thienyl)hexafluorocyclopentene (C)では、アセトニトリル含有緩衝液中で、Bは-4℃で57% ee、Cは-4℃で>99% eeの選択性を示すことを確認している。今回、光学分割したBをTMSCHN2によってメチル化し、CDスペクトルを比較することで、HSA中、Bは(S,S)、Cは(R,R)の絶対立体配置をもつ閉環体が優勢に生じることを明らかにした。 従って、メチルエステルの光閉環反応については、メチルエステルの開環体を用いるか、あるいはカルボン酸の開環体の光反応を行った後にメチル化することで、同じHSAを用いて異なるエナンチオマーを優勢に作り分けられることを明らかにした。
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