研究課題/領域番号 |
23350099
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田部 勢津久 京都大学, 大学院・人間・環境学研究科, 教授 (20222119)
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キーワード | 光伝導 / 蛍光体 / 希土類 / ガーネット / 光イオン化 / 消光 / 残光 |
研究概要 |
初年度であるH23年度は、Ce^<3+>やEu^<3+>を添加した酸化物蛍光体の作製・光物性評価と光伝導度測定システムの構築を中心に行った。 試料作製は概ね順調に進み、ホスト結晶組成を変化させたCe^<3+>添加ガーネット蛍光体や残光を示すEu^<2+>添加酸化物蛍光体等の多結晶体ペレットを作製した。また、それらの蛍光体におけるCe^<3+>やEu^<2+>の局在5dエネルギー準位と非局在ホストバンド構造の関係性が光学特性に与える影響を明らかにするため光伝導度測定システムの構築を試み、その測定に成功した。この光伝導度測定により、励起された5d準位の電子の振る舞いを予測することができ、これまで考察でしかなかった蛍光体の光イオン化による消光や長残光機構を説明できる結果を得た。 具体的には、ガーネット結晶中のGa濃度を変化させたCe^<3+>添加Y_3Al_5O_<12>(Ce:YAG)、Y_3A_<12>Ga_3O_<12>(Ce:YAGG),Ce^<3+>:Y_3Ga_5O_<12>(Ce:YGG)を作製し、その光学特性評価と光伝導度測定を行った。得られたCe:YAG蛍光体は、発光量子効率90%を超える優れた黄色蛍光体であったが、Ce:YGGは室温で完全に消光した。光電流励起スペクトルを測定してみると、Ce:YAGに:おいては、光電流が観測されなかった一方で、全く発光を示さなかったCe:YGGにおいて強い光電流を観測した。光電流強度のGa固溶量依存性は、発光強度のそれとは反対に、Ga固溶量増加に従い、増加することが分かった。以上の結果から、Ce:YAGにおいては、5dエネルギー準位と伝導帯が十分に離れているため、光電流が流れず高い発光効率を示し、一方Ce:YGGにおいては、5dエネルギー準位が完全に伝導帯内に位置しているため、発光を示さず、強い光電流が流れたと考えられる。以上より我々は、局在・非局在電子構造と光物性の関係性の説明に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
まだ、改良の余地はあるが、平成24年度までに構築予定であった光伝導度測定システムの構築に成功し、高いS/N比で光電流励起スペクトルの測定が可能になった。また、得られた光伝導度のデータから、本研究の目的である局在励起電子準位とホストの非局在電子構造の関係を明らかにし、消光や残光機構などの光物性を説明することができた。以上より当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
数種類の蛍光体において、固体電子構造と光物性の評価を行ったが、結晶組成の違いによる系統的な光学・電子的物性評価はまだ不十分で、統一的な全貌解明には至っていない。今後、より多くの蛍光体を系統的に作製し、結晶構成元素の違いによる結晶局所構造と5d軌道分裂、5d準位とホストの伝導帯との相対的なエネルギー位置関係、またそれらのパラメータが温度消光などの発光特性に対して与える影響についての評価を詳細に行う。
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