研究概要 |
本研究は,新規な環境適応型媒体・機能性物質として注目されている"イオン液体"を利用した高分子微粒子材料創製の新展開に挑戦することを目的としている。初年度にあたる本年度は,特にイオン液体中での高分子と無機物とのハイブリッド粒子の合成に焦点を当てて検討に取り組んだ。 本申請者はこれまでに,ポリスチレン(PS)シード粒子存在下,イオン液体中でのアルミニウムイソプロポキシドのゾル-ゲル反応により,PSの熱分解温度以下の比較的低温で結晶性アルミナ粒子,及びコアシェル型PS/結晶性アルミナ複合粒子の合成に成功している。この知見を基に,本研究では,複合粒子の機能性材料としての応用を見据え,比較的高い熱伝導率を有する酸化マグネシウム(MgO)に着目し,イオン液体中における硝酸マグネシウムのゾル-ゲル反応によりPS/MgO複合粒子合成を試みた。PSシード不在下,比較として2-プロパノール及びイオン液体中にてゾル-ゲル反応を行ったところ,いずれの系においても期待された結晶性MgOではなく,水酸化マグネシウム[Mg(OH)_2]の生成が確認された。しかしながら,イオン液体系で得られたMg(OH)_2のほうが高結晶性であった。さらに,両系の水酸化物を熱処理するとMgOに転移することも確認したが,熱処理前同様,イオン液体系のほうが高い結晶性を保持していた。PSシード存在下,同様の条件でゾル-ゲル反応を行ったところ,2-プロパノール系ではMg(OH)_2の単独結晶が生成し,複合粒子が得られなかったのに対し,イオン液体系では副生微粒子が若干観察されるものの,滑らかな表面を有する複合粒子を得られた。その内部構造は,超薄切片の透過型電子顕微鏡観察により,PSをコア,Mg(OH)_2をシェルとするコアシェル構造を形成していることが明らかとなった。また,熱重量分析より,複合化されたMg(OH)_2は17%と算出され,理論値と良い一致を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
イオン液体中での粒子表面の電荷を測定するため,当初予定していた設備を変更するなどあったが,計画通りにイオン液体中での複合粒子の合成および無機物とのハイブリッド粒子の合成に成功した。さらに,当初の計画には無かったがイオン液体を媒体としてだけでなく,重合部位をもったイオン液体モノマーの合成を行い,それを用いた高分子微粒子の合成にも成功するなど,本年度は3報の学術論文と20件の学術講演を行うなど,おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,当初の計画通りに,もう一つの検討課題であるイオン液体中にて感温性を示す高分子を用いた機能性ゲル微粒子の合成および機能制御を推進する。また,本年度,成功した汎用ポリマー粒子とイオン液体中での無機物との複合粒子を発展させ,今年度用いたイオン液体中でのゾルゲル法による無機酸化物の合成を詳細に検討してその生成メカニズムを解明すると同時に,イオン液体中での速い脱水素反応を利用して窒化ホウ素などの機能性無機物質との複合化も検討する。さらに本年度新たに成功したイオン液体ポリマー粒子の検討を深化させ,シード分散重合法による汎用ポリマーとの複合化も検討する。
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