研究課題/領域番号 |
23350116
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
陸川 政弘 上智大学, 理工学部, 教授 (10245798)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ブロック共重合体 / 触媒移動型重縮合 / Ni(0)カップリング重合 / ミクロ相分離 / プロトン / 導電率 / ジブロック / 電解質 |
研究概要 |
(1) ブロック形体と高次構造の関係 系統的にブロック鎖長、ブロック組成、さらにはブロックシーケンスを調整したブロック共重合体を合成した。触媒移動型重縮合法を用いることで、分子量(鎖長)と分散度を制御したジブロック共重合体が得られた。キャスト膜の構造をAFMとS-TEMにより観察した結果、球状、ラメラ状、ジャイロイド状、シリンダー状のミクロ相分離構造が確認された。親水部ブロック鎖長とイオン交換容量(IEC)が連動して変化するため、親水部ブロック鎖長が長い(IECが高い)共重合体が高いプロトン伝導性を示した。しかも、構造に由来する現象も見られ、共重合組成のみならずそのミクロ相分離構造の状態もプロトン伝導性に寄与することが明らかになった。さらに、ジブロックから親水性ブロックを外側にしたABAまたはBABトリブロック体の合成を行い、シーケンスと高次構造の関係を調査した。 (2) 物理的または機械的手法による高次構造の配向制御 分子量制御したジブロック共重合体は、マルチブロック共重合体より明瞭なミクロ相分離構造を示した。各種溶媒に可溶であることから、キャスト溶媒、乾燥条件によって、高次構造の配向性が異なることが明らかになった。特に、膜表面近傍に大きな影響を与えることが分かった。一方、電場、磁場印可などの物理的な配向制御技術ではあまり変化がないことが分かった。 水溶液中または希薄溶液からのキャスティングを行い、ジブロック共重合体の凝集状態を調査した。水溶液中では、ミセル状の凝集体が観察され、100nm程度の直径を有する球状凝集体であることが分かった。さらに、希薄溶液からのキャストでは、水中ミセルが基板表面に高密度に堆積していることが観察された。これらの挙動は、基板の種類にも大きく影響され、球状微粒子、板状結晶が観察された。板状結晶では盤面状に親水部が直線上に配向した構造が観察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
触媒移動型重縮合反応で重合可能な親水性、疎水性モノマーを見出し、数万程度の分子量を持つジブロック共重合体とトリブロック共重合体の合成に成功した。ジブロック共重合体は、親水性と疎水性ブロックからなることから、マルチブロック共重合体と同様のミクロ相分離構造を形成した。しかも、触媒移動型重縮合法による分子量と分散度の精密な制御は、今までの芳香族系ブロック共重合体では得られなかった明瞭なミクロ相分離構造の形成とその制御を可能にした。ミクロ相分離構造は親水部ブロックと疎水部ブロックの非相溶性から発現するため、親水部ブロックの凝集部位はプロトン輸送の経路として働く。ジブロック共重合体はプロトン輸送部位と構造形成を担う疎水部ブロックの凝集部位からなるので、含水した水を最大限に活用して高いプロトン輸送と膜形成を示している。本研究で開発したジブロック共重合体は、明瞭なミクロ相分離構造を実現したため、これらの効果が強く影響し、現状では炭化水素系電解質材料として世界最高水準のプロトン伝導性を実現している。また、本材料を触媒層中のアイオノマーとして利用した場合においても、世界最高の発電特性を示している。しかも、広く燃料電池用電解質材料として用いられているナフィオンと比較しても、高温低加湿域では高い発電性能を示すに到った。 一方、これらジブロック共重合体の一部は水に可溶であり、水中でミセルを形成するなど構造に由来した特殊な界面特性を有することが明らかになった。電解質材料以外での応用を目的に、水中でのミセル形成挙動や、各種基板に対する吸着挙動など、計画していなかった物性検討とそれを利用した応用研究も行っている。 以上のことを総合的に判断して、本研究は計画またはそれ以上に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
高分子電解質形燃料電池の電解質材料(膜、触媒層アイオノマー)として、この二年間で得られたブロック共重合体材料をさらに詳細に評価する。特に、ミクロ相分離構造とプロトン伝導性、配向性とプロトン伝導性の異方性、発電中における物質(プロトン、水、燃料ガス)移動に関して明らかにする。また、触媒層中に用いる電解質材料として高い特性が得られているので、その機構解析とさらなる発電特性向上のための知見を得たい。一般に、炭化水素系高分子電解質においては、プロトン輸送と燃料ガス輸送が強い相反関係にあり、プロトン輸送を高くするために材料設計をすると、燃料ガス透過性が減少するため、触媒層のアイオノマーとしては利用価値がないと考えられていた。したがって、発電状態またはそれに近い状態での触媒層中のプロトン輸送を測定し、かつ電気化学的に燃料ガス輸送性を精度よく測定することで、機構解明に繋がると考えている。 一方、触媒層中の電解質材料の状態や構造を決定し、構造と電気化学的な特性の関係を明らかにするために、透過型電子顕微鏡による観察を試みる。触媒層中のアイオノマーの分散状態、白金触媒、触媒担持カーボンとの界面状態を明らかにしたい。また、加湿状態でのブロック共重合体の構造を解析するために、中性子小角散乱(現在震災の影響で施設が休止しており、国内では利用できない)の測定を海外の研究施設で実施する予定である。ミクロ相分離構造の決定のみならず、プロトン輸送チャンネルの形成状態や連結性を数値化できるものと期待している。 一方、計画にない分子凝集挙動などの界面特性についても、動的光散乱測定やAFM観察等を中心に検討を進める。これにより、これらジブロック共重合体の技術の波及効果を検討する。
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