研究課題/領域番号 |
23360007
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
下山 淳一 東京大学, 大学院・工学系研究科, 准教授 (20251366)
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研究分担者 |
岸尾 光二 東京大学, 大学院・工学系研究科, 教授 (50143392)
荻野 拓 東京大学, 大学院・工学系研究科, 助教 (70359545)
山本 明保 東京大学, 大学院・工学系研究科, 助教 (20581995)
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キーワード | 超伝導体 / 臨界電流特性 / 結晶粒界 / 不可逆磁場 / 化学組成 |
研究概要 |
本研究課題では、多結晶高温超伝導材料の特性改善に向けた有効な戦略の確立を目指し、高温超伝導体の結晶内、結晶粒界の臨界電流特性、特に磁場中における特性に強く関わる不可逆磁場特性の決定因子の解明を進めている。23年度の研究では銅酸化物高温超伝導体の焼結体試料に対する後熱処理およびキャリア濃度制御の結晶内、結晶粒界の臨界電流特性に与える影響を系統的に調べたほか、鉄系高温超伝導体の高純度多結晶体の作製にも着手し、さらに亜粒界を持つY123溶融凝固バルク体の臨界電流特性制御を試みた。なお、当初は単結晶試料の接合にも着手する予定であったが、余震、節電の影響のため良質な単結晶試料の育成が十分にできず、24年度にシフトして実施することとした。 23年度の研究実績として、第一に還元ポストアニール効果の発見が挙げられる。Bi2223相およびY123高温超伝導体の無配向多結晶体に対して、それぞれ720℃付近、800℃付近で酸素分圧1kPaのものポストアニールプロセスを加えるという簡便な方法によって、結晶粒界をまたぐ臨界電流密度J_cが劇的に向上することを見出した。このポストアニールによる焼結体の微細組織や結晶粒内の臨界電流特性の変化はほとんどない。粒界部ではJ_cだけでなく下部臨界磁場、不可逆磁場の上昇が確認できており、さらにポストアニールの効果はキャリアのオーバードープ状態でより顕著になることがわかった。本成果は還元ポストアニールが粒界部近傍の局所化学組成の変化を伴うことを示唆しており、今後、単結晶の接合部の臨界電流特性の決定因子を探る手法としてこのアニールプロセスを積極的に採用する方針が固まった。また、23年度には磁気光学像測定装置に用いるBi2223高温超伝導線材を用いた液体窒素冷却方式の超伝導電磁石を計画通り購入し、研究に適した長時間安定した磁場空間が得られることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
単結晶を用いた研究は9項に記したように遅れたが、その一方、銅酸化物超伝導体の焼結体の粒界特性改善に極めて有効な還元ポヌトアニールプロセスを見出した。これによって単結晶を用いた研究が当初予定より効率的に進めることができる。このほか、Y123溶融凝固バルク体に対しても同様なアニールが臨界電流特性改善に有効であること、さらに鉄系高温超伝導体についても多結晶試料の高品質化に成功するなど、初年度の進捗としては総合的に見ておおむね順調と判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
24年度以降は焼結体や溶融凝固バルク体に加え、単結晶、バイクリスタル上に成膜した薄膜についても系統的な研究を進め、短ξ高温超伝導体における粒内・粒界の臨界電流特性、特に不可逆磁場の決定因子を化学組成や結晶粒間の方位関係の観点から解明していく。この研究を通じて、銅酸化物超伝導体と鉄系超伝導体の類似点、相違点を明らかにし、それぞれにおける高機能材料開発指針が提案できる成果の獲得を目指す。
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