研究課題/領域番号 |
23360010
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
寺嶋 孝仁 京都大学, 低温物質科学研究センター, 教授 (40252506)
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キーワード | 重い電子系 / 人工超格子 / 超伝導 / 2次元 / MBE / CeCoIn_5 / YbCoIn_5 / 上部臨海磁場 |
研究概要 |
23年度は重い電子系超伝導体CeCoIn_5と通常金属からなる人工超格子の成長技術を確立し、超伝導性を持つ重い電子を2次元に閉じ込めた2次元重い電子系超伝導体の実現を目的として研究を行った。Ceなどの希土類金属は極めて酸化されやすいため、本研究では超高真空下で薄膜を成長可能な分子線エピタキシー(MBE)法により人工超格子の作製を行った。CeCoIn_5と結晶構造が同じでf殻の詰まったYb^<2+>を含む非磁性金属であるYbCoIn_5を超薄膜としてCeCoIn_5と繰り返し積層した人工超格子により、超伝導を担う重い電子をCeCoIn_5層に閉じ込めた構造の作製に成功した。 YbCoIn_5に隔てられたCeCoIn_5層間の結合を無視できる程度に抑制するためYbCoIn_5の膜厚をCeCoIn_5のコヒーレンス長以上とし、CeCoIn_5の膜厚を変えることで、次元性を連続的に変化させた。超格子の構造評価は透過型電子顕微鏡とX線回折により行い、顕微鏡像の解析およびX線回折パターンのシミュレーションとの比較からCeCoIn_5とYbCoIn_5の相互拡散は10%以下であることを確認した。 人工超格子においてCeCoIn_5が1層の場合にも超伝導性が確認された。また、電気抵抗の磁場角度依存性より、人工超格子における超伝導は2次元的な超伝導であることが確認された。人工超格子の上部臨界磁場(H_<c2>)の測定から、2次元的なCeCoIn_5における超伝導電子対の結合の強さの指標である2Δ/kTc(Δは超伝導ギャップ)の大きさはBCS理論から求まる3.5をはるかに上回る10に達しており、次元性を下げることにより出現した極めて強い電子相関に由来する特異な超伝導状態が形成されていることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
重い電子系希土類金属間化合物のエピタキシャル薄膜の成長は世界の有力研究機関において試みられてきたが、これまで成功例は報告されていない。代表者らの研究グループは予備的な研究期間に薄膜成長装置の開発、基板材料の開発を行い、本研究においてCeCoIn_5のエピタキシャル成長とCeCoIn_5/YbCoIn_5人工超格子の作製に成功し、2次元重い重い電子系を初めて実現したものである。また、2次元重い電子系に起因する特異な超伝導状態を発現させることにも成功するなど、重い電子系の研究分野に次元性制御、素子化という新たな分野を開拓したものであり、当初の計画以上に研究は進展していると自己評価している。
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今後の研究の推進方策 |
24年度は23年度に実施した低次元化と並ぶ重要課題である超伝導相と非超伝導相が空間的にテクスチャー構造をとるFFLO状態の解明についてCeCoIn_5薄膜を用いた常伝導体(Au、Ag)/絶縁体(Al_2O_3)/CeCoIn_5の積層構造を持つNIS型トンネル接合素子を作製し、極低温、強磁場下での測定により研究を実施する。23年度の予備的実験により素子形成に重要な薄膜表面の平坦化技術、フォトレジストの形成技術はすでに確立しており、本格的な素子化を実施する体制はできている。CeCoIn_5では、強いパウリ常磁性効果のため、上部臨界磁場における一次相転移や、超伝導秩序変数が空間的に不均一になったFulde-Ferrel-Larkin-Ovchinnikov (FFLO)状態が現れる。これらは第2種超伝導体ではじめて観測された現象であり大きな注目を集めている。超伝導トンネル素子によりFFLO状態における電子状態、超伝導ギャップについて直接的な解明を実施する。
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