研究課題/領域番号 |
23360011
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
森 勇介 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90252618)
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研究分担者 |
吉川 洋史 大阪大学, 工学研究科, 招へい教員 (50551173)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | レーザー分子注入法 / タンパク質 / レーザー核発生 / 溶液撹拌 / ゲル |
研究概要 |
(1)分子注入法によるタンパク質分子高濃度化の実証 色素Coomassie Brilliant Blue R-250(CBB-R)により染色したタンパク質と高速カメラを用いることで、溶液―ゲル界面でのタンパク質濃度分布をマイクロ秒オーダーで高速測定できることを実証した。タンパク質濃縮の結果である核発生については、ゲル側にレーザーを照射した場合、溶液側にレーザーを照射した場合いずれもレーザー照射した位置近辺に核発生することが確認できている。現在、緑色蛍光タンパク質(GFP)を用いたタンパク質濃度の観察も進行中でありタンパク質濃縮の時間スケールが、数秒~数分ではなくマイクロ秒オーダーと極めて短時間である可能性が示唆された。 (2)分子注入法によるタンパク質結晶核発生誘起効果の実証 我々はこれまでに、リゾチームやグルコースイソメラーなどのモデルタンパク質を用いて結晶化最適条件の探索を行い、(A)レーザー集光点―ゲル間距離(B)ゲル濃度の2つがその重要パラメータであることを見出し、これらの条件を最適化することで核発生確率の高効率化に成功した。 (3)「タンパク質・レーザー分子注入法」と「溶液攪拌法」との融合 本課題で提案した「タンパク質・レーザー分子注入法」と「溶液攪拌法」を融合させる技術「ゲル上攪拌法」の開発を行った。また、本技術により、ゲル上に晶出した結晶を溶液流れ下で育成することで結晶品質が向上することが、定性的に示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CBB-R染色リゾチームを用いた溶液—ゲル界面でのタンパク質挙動観察から、タンパク質の濃縮領域の確認、および結晶化の確認に成功しているが、一方でCBB-R染色リゾチームが会合体を形成しやすいという特徴があったため、結晶化に関与するタンパク質濃度上昇の詳細な検証はまだ完了していない。そのため、今年度はGFP観察に高速度カメラを導入することで、タンパク質濃度上昇の詳細観察を完了する。 また、これまでに、リゾチームやグルコースイソメラーなどのモデルタンパク質を用いて結晶化最適条件の探索を行い、(A)レーザー集光点―ゲル間距離(B)ゲル濃度の2つがその重要パラメータであることを見出し、その最適化の結果結晶化確率の向上が実現している。最終年度に課題として残されているのは、本技術を用いた難結晶化タンパク質の結晶化であり、現在これに取り組んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
(1)ゲル界面へのレーザー照射によるタンパク質結晶核発生誘起効果の検証 本年度は、これまでに得た知見を利用して、これまでにX線解析に適した結晶が得られていない難結晶化タンパク質について、「タンパク質・レーザー分子注入法」を適用し、本技術の原理的限界を見極めながら、最適化条件の探索を行い、本技術の有用性を示す。難結晶性のタンパク質は、連携研究者及び研究協力者が多数有しているので、それらを利用する。育成できた結晶を評価し、3次元構造解析に適した良質の結晶が得られた場合、その構造解析を進める。さらに、レーザー照射条件が最適化された試料においては、溶液攪拌法を導入し、より良質の結晶の作製および結晶成長速度の促進を行う。 (2)ゲル界面からの結晶化ダイナミクスの計測 今年度は緑色蛍光タンパク質(GFP)を用い、レーザー結晶化実験を行う。GFPは、タンパク質分子内に発色団を有するため、CBBなどを用いて化学修飾する必要がない。よってGFPを用いることで、結晶化条件に影響を与えることなく、蛍光による溶液内の濃度変化の定量測定が可能である。GFPは結晶化するため、マイクロ秒オーダーでの分子のダイナミクスから、より長時間スケールの結晶化に至るまで連続的な物理現象が観察可能である。さらにGFPに加えて、有機低分子を用いてゲル界面での結晶化のより詳細な測定も行う。我々は昨年度に、有機低分子・アセトアミノフェンを用いて、レーザー照射からマクロな結晶生成に至るプロセスを秒オーダーで観測することに成功している。本年度は、より短時間スケールでの高速撮影に挑戦するとともに、他の有機分子の結晶化も試行し、ゲル界面からの結晶化ダイナミクスの一般性について調べていく。
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