研究概要 |
本研究の目的は,高電場印加により大きく格子変形させた強誘電体の格子歪み,イオン変位,電子密度分布をその場観察し可視化するための実験要素技術の開発を行うことである.そのために,電場を印加することができ,温度変化させながら電場印加のタイミングに対して時分割X線回折実験を行うことのできるX線回折・誘電物性同時計測装置を製作する. 本年度は,透過能の高い銀の特性X線(波長:0.56Å)をX線源とし,試料印加電場および試料温度を精密に制御できる機能を備えたX線回折・誘電物性同時計測装置を広島大学に導入し,高電場印加下での構造物性研究を大学で行うための研究基盤を構築した.この装置の主要部分は,本年度の予算で購入した試料水平型X線回折装置により構成されている.所有していた誘電物性測定装置,温度制御装置,DC電源などと組み合わせてX線回折・誘電物性同時計測装置を自作し,設計通りの性能であることを確認した.一方,SPring-8の放射光単結晶構造解析ビームラインにおいて,空間分解能10^<-14>m(100兆分の1メートル),時間分解能10^<-6>s(100万分の1秒)を同時に実現する時分割構造計測システムを構築し,チタン酸バリウム強誘電体に交番電場を印加したときに起こる分極反転と圧電振動の際の格子変形のダイナミクスを,原子変位のスケールでその場観測することに世界で初めて成功した.今後,本研究をきっかけに,ナノ秒・ピコ秒オーダーのダイナミクス研究に発展し,動作している電子デバイス中の原子の挙動をあたかも透視して観測することができるようになると期待される.この成果はJapanese Journal of Applied Physics(JJAP)の"SPOTLIGHTS"論文に選出され,10月と11月の"Most Downloaded Articles Top 20"となった.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,大学に導入したX線回折・誘電物性同時計測装置を用いて,電場印加下での結晶構造解析実験を本格的に開始する.試料には,強誘電体を用い,基本物性や相転移と結晶構造とを一対一に対応させたデータを計測した後に,高電場印可下での構造物性を調べる.また,放射光と開発した時分割構造計測システムとを組み合わせて,より高い時間分解能での実験や粉末回折実験への応用を目指す.
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