研究課題/領域番号 |
23360017
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
安 東秀 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (70500031)
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キーワード | スピンエレクトロニクス / 磁気共鳴 / スピントルク / 走査プローブ顕微鏡 |
研究概要 |
(i)高周波の信号計測に対応した走査プローブを用いた磁気トンネル接合(MTJ)素子からのスピン注入発振の観測 先ず、MTJ(磁気トンネル接合)積層薄膜である、Fe(001)/MgO(001)/Fe(001)やPy/MgO(001)/Py 層を作成して、磁気共鳴用高周波プローブを用いてMTJ積層膜からスピン注入発振信号を検出することを目指した。しかしながら、MgOトンネルバリヤー層の作成は容易ではないことが判り、先ず、より簡便に作成できる巨大磁気抵抗効果(GMR)積層膜を発現するPy/Cu/Py積層膜を用いてスピン注入信号による発信信号を計測することを目指した。この際には、パーマロイ(Py)層の酸化を防ぐ目的で金の保護層を蒸着して用いた。探針から局所に電流を注入し磁性固定層でスピン偏極電流を生成し、磁性フリー層へスピン注入トルクを印加し高周波信号をモニターしたが、スピン注入発振に因る信の観測には成功していない。このことは探針先端の酸化の影響や形状に依存することも考えられ、ピエゾ素子を用いて垂直位置制御をより高精細に行うために制御装置のプログラムに改良を加えて整備した。 水晶振動子を用いた原子間力顕微鏡(AFM)装置とマイクロ波プローブとを融合した、マイクロ波プローブ付AFMについてもデザインを決定できた。 また、熱勾配をスピン注入源として用いる効果や磁気共鳴からスピン流信号を検出する効果等の関連する研究において研究成果を得た。 (ii)超高真空中で動作するスピン注入発振観測のための走査顕微鏡装置の整備 超高新空環境下で高周波プローブを用いてスピン注入が可能となる装置の開発の設計を行った。特に、真空を破らずに試料を搬送し、かつ、マイクロ波を導入でき装置の設計を進めた。その際に、マイクロ波線の絶縁体にはポリイミドを用いて真空中のガス放出を抑える対策を施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
高周波部品の超高真空装置への導入デザインについて設計に時間が要したこと、当初、構想していたMTJ積層膜が簡便には作成できなかったこと、代替に用いた巨大磁気抵抗効果積層膜を用いた、最初のテストではスピン注入発信信号が得られていない等、当初の計画より遅れている。しかしながら、探針の酸化の問題を解決する必要が有ることが判ったことや、当初懸念していた、超高真空中へのケーブル等のマイクロ波部品のベーキングによる真空の悪化について、テフロン製ではなくポリイミド製を使用することで超高真空を保持することが可能になるなど、着実に研究目的の実現へ向けて進展している。
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今後の研究の推進方策 |
(i)高周波対応プローブを用いた磁気トンネル接合(MTJ)素子からのスピン注入発振の観測 探針の酸化によるスピン注入発信信号の劣化の問題を解決するべく、探針にタングステンではなくPtIr等の不活性な材質を用いることや、探針を強く接触させて酸化膜を取り除く等改善を試み、大気中において、磁気共鳴用高周波プローブを用いたスピン注入発振が実現できるように注力する。この際には探針の伝導性に因らないフィードバック機構を有する原子間力顕微鏡(AFM)装置が有用であり、開発を進めている水晶振動子-AFMの整備を速やかに行う。また、GMR素子からの信号検出に成功した後には、MTJ 積層膜に試料を変更して研究を進める。 (ii)超高真空中で動作するスピン注入発振観測のための走査顕微鏡装置の整備 これまでに設計を終えた、超高真空中でスピン注入が観測可能な高周波走査プローブ顕微鏡装置を早急に整備する。超高真空環境内にマイクロ波を導入してマイクロ波信号の計測ができる装置の整備を進め、超高新空中でのより清浄な環境での研究環境を実現する。
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