研究課題/領域番号 |
23360019
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
佐々木 正洋 筑波大学, 数理物質系, 教授 (80282333)
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研究分担者 |
山田 洋一 筑波大学, 数理物質系, 助教 (20435598)
朝岡 秀人 日本原子力研究開発機構, 量子ビーム応用研究部門, 研究主幹 (40370340)
関場 大一郎 筑波大学, 数理物質系, 講師 (20396807)
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キーワード | 水素吸蔵 / フラーレン / 電子ドープ / 吸着 / 脱離 / 超音速分子線散乱法 / 弾性反跳粒子検出法 / 中性子反射率計測 |
研究概要 |
電子ドープしたフラーレンと水素分子の結合エネルギーが比較的大きく、水素吸蔵材料となり得ることが理論的に予測されている。我々は、超音速分子線散乱(MBS)法を応用して、電子がドープされることが知られているC60/Cu(111)表面に水素が室温で吸着し、わずかの昇温で脱離することを明らかにした。本研究は、MBS法とともに、走査トンネル顕微鏡(STM)観察、イオンによる弾性反跳粒子検出(ERDA)法、中性子反射率(NR)計測、光学歪みセンサー(MOS)計測を用いる事により、吸着の詳細を理解し、高効率水素吸蔵材料の設計指針を提案することを目的とする。 今年度は、MBS法に、質量分析計による脱離種の計測を組み合わせ、C60/Cu(111)上吸着水素について詳細に検討した。脱離温度から概算された水素の吸着エネルギーは1eV程度と分子状吸着としては極めて大きかった。そこで試みた水素と重水素の共吸着での脱離種計測から、H2、D2分子と同程度の強度のHD分子の脱離が観測された。すなわち表面上の水素は高い割合で解離している。この系では、先の理論予測の場合に比べて大量の電子がドープされることから水素が解離にまで至ったものと推察される。この他、暴露量に対する吸着量、水素吸着の絶対量、脱離における同位体効果、水素の運動エネルギーによる吸着への影響等において、通常の吸着とは大きく異なる挙動が観測されている。次年度以降に詳細を明らかにしたい。 また、表面の幾何的状態、電子的状態を原子スケール実空間で計測できるSTM法を用いて、多様な表面においてC60単分子層計測の経験を蓄積し、吸着水素を計測するための準備が完了した。 一方、最表面以外にある水素を計測できるERDA法を、C60/Cu(111)表面に適用できるように装置改良を進めているが、今年度はアモルファスカーボン膜中における水素を高感度に計測できることを実証した。同じく膜内部の水素を計測するNR法は、高感度化を進め、この系に適用できるようになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年3月の東日本大震災で。弾性反跳粒子検出(ERDA)法、中性子反射率(NR)計測で用いる加速器および中性子施設が大きく損傷した。しかし、担当者等の努力によりほぼ予定通りの研究を遂行した。一方、吸着種の計測において予想外の特異な現象が観測されたため、その部分を詳細に検討する必要が生じた。これによって、高感度化を施した後に分子散乱の研究を十分に遂行することができなかった。しかし、今年度に十分な準備を行ったため、短期間で十分な成果が上がるものと期待される。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究によって、注目している水素吸着の状態が当初予想していた分子状吸着ではなく解離吸着であることが明らかになった。また、関連すると思われるが、従来知られている吸着とは異なる現象が多く観測され始めている。本研究においては、現象に対するメカニズムの理解が極めて重要である。当初予定していた研究に加えて、吸着の詳細検討を行うことにする。また、東日本大震災の影響が部分的には残るものの、最終的には十分な研究が行えるものと予想される。これによる研究内容の変更は行わない。
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