研究概要 |
本研究の目的は,超短パルスレーザー照射による固体表面でのSPPの成長と緩和過程をアト秒時間分解能で追跡し,ナノ周期構造形成過程に関する独自モデルを実験的に検証することにより,レーザーによる初めてのナノプロセッシング手法を開拓することである。当該年度には,以下の研究を行った。 fs秒レーザーを用いたポンプ・プローブ計測装置を開発し,半導体を主な標的とし,ポンプパルス照射に伴う表面の反射率の変化を超高時間分解測定することによって,周期ナノ構造形成の物理過程,及びその緩和過程を解明するための研究を行った。その結果,比較的融点の低い半導体表面の周期ナノ構造形成には,低フルーエンスでの多重パルス照射が必須であり,表面層の構造転移と界面で過渡的に励起される表面プラズモンポラリトン(SPP)によって構造形成が進展することを検証した。 異なるフルーエンス,及び異なる照射環境下(大気中,水中)でポンプ・プローブ実験を行い,周期構造形成の緩和過程に関する初めての知見を得た。結果を応用して周期ナノ構造形成過程を制御する方法を実験的に検討し,誘電体(DLC,GaN)表面にほぼ完全なナノ格子構造を大気中で創製する手法の開発に成功し,ナノプロセッシング手法の開発指針を得た。 一方,搬送波包絡線位相(CEP)安定化fsレーザー出力をポンプパルス,同レーザーを基本波として発生させる高次高調波をプローブパルスとするポンプ・プローブ計測装置の開発を進めた。高次高調波スペクトルを高速で観測できる計測装置を完成したが,5fsレーザー装置の動作不良により計画が大幅に遅れ,当該年度内に計画していた計測装置は完成しなかった。なお,海外の研究者(独)とモデル比較のための共同研究を継続した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目標をほぼ達成し,半導体標的について周期ナノ構造形成の主な物理過程を解明すると共に,非熱的な構造形成過程の条件を突き止めた。また,大気中でほぼ完全なナノ格子構造を加工する新手法を開発することに成功した。なお,SPP励起過程の簡易計測手法の開発は期待通りには実現できなかった。5fsレーザー装置の動作不良により,アト秒計測装置開発が遅れたが全体計画に大きな支障はない。
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今後の研究の推進方策 |
5fsレーザーと高次高調波発生によるコヒーレントEUVパルスを用いたポンプ・プローブ計測装置を完成し,SPP励起・緩和過程を直接的に時間分解計測する。結果と構築モデルを基に,周期ナノ構造形成過程の制御とそれを利用した完全ナノ格子加工手法を,半導体や金属,並びに他の誘電体に適用する。結果を基に,任意物質について周期間隔~200nm以下のナノ格子・ナノドットを設計・加工できるレーザープロセッシング手法の開発研究を行う。
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