研究課題/領域番号 |
23360042
|
研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
堀江 雄二 鹿児島大学, 理工学研究科, 准教授 (50201760)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 色素増感太陽電池 / 電界紡糸法 / ナノファイバ / 光蓄電池 / 不織布 / フレキシブルデバイス / 変換効率 |
研究概要 |
これまで,電界紡糸法を用いて酸化チタン(TiO2)およびそれにニオブをドープしたTiO2(NTO)の直径数十nmのナノファイバ(NFs)膜の作製条件を確立し,色素増感太陽電池(DSC)のTiO2多孔体層に混入することによって,電荷移動特性と発電効率が改善されることを示した.また,NFs表面をレーザー蒸着法でコーティングし,NFsを構成するナノ粒子間の空間を埋めることで,電荷移動特性を飛躍的に向上させることができることを示した.3年目にあたるH25年度は,さらに電界紡糸NFs不織布を基材としたフレキシブルなDSC及び光蓄電池(PRB)の実現のためにいくつかのアプローチを行った. ①NTO-NFs不織布の隙間にTiO2多孔体を浸透させたDSC作用電極の作製のために,TiO2ペーストの浸透条件とその発電特性への影響を調べ,多孔体の比表面積が重要であることを示した. ②酸化タングステン(WO3)NFs不織布を蓄電材兼基材としたPRB作用電極の作製を,TiO2ペーストを不織布に浸透させる方法と電界スプレー法を併用してTiO2ナノ粒子を不織布中に担持させる方法で試みた.前者ではTiO2多孔体をNFs不織布中に作製することができ,良好な光蓄電特性を得ることができた.しかし,後者では担持できたTiO2ナノ粒子の数が少なく,十分な特性を得ることはできなかった. ③セラミックスNFs不織布の機械・電気特性の悪さを克服するため,グラファイトの電界紡糸NFs不織布の表面をTiO2やWO3の薄い層でコートしたコア・シース型NFs不織布を用い,DSC及びPRBの作用電極を作製しその特性を調べた.最大の問題点はグラファイトによって入射光が遮られてしまうことにあることがわかり,今後の電極設計の方向性を示すことができた. ④デバイスの全固体化のためにペロブスカイト増感材と正孔輸送材を用いたデバイスの試作を始めた.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
年度当初には以下の3点を目標に掲げた.①電界紡糸ナノファイバを基材に用いたニオブドープ酸化チタン(NTO)=酸化チタン(TiO2)ナノファイバ複合色素増感太陽電池(DSC)電極の作製 ②酸化タングステン・ナノファイバ(WO3-NFs)=酸化チタン(TiO2)複合光蓄電池(PRB)電極の作製 ③正孔輸送材料を用いた全固体ハイブリッドDSCの試作 ①についてはTiO2ナノファイバ不織布の機械的強度が強くなかったことから,ガラス基板に保持した状態で酸化チタン多孔膜を不織布の間に挿入することから始め,目的の構造の薄膜電極を得ることができた.また,作製した電極における電荷移動特性を調べたところ,移動度を向上させることはできたものの漏れ電流が大きいことがわかった.このように解決すべき問題点を明らかにでき,今後の方向性を示すことができたため,当初の目標はほぼ達成できたと考えている.これらの成果は国際会議にて発表予定である. ②についてもTiO2ペーストをナノファイバ不織布に浸透させる方法で複合光蓄電池電極を作製し,比表面積の大きなTiO2多孔膜を挿入できたときに平坦膜よりも大きな光蓄電量が得られることを示した.その点で当初の目標は達成できたが,WO3ナノファイバ不織布の蓄電特性および複合電極構造の最適化がまだできていないため,次年度の課題として残っている. ③については予備実験としてペロブスカイト化合物とホール輸送材を用いた全固体化DSCの試作を行い,ナノファイバ不織布を用いたフレキシブル太陽電池への応用を検討した.これについてはまだ道半ばであり,次年度継続して行う.
|
今後の研究の推進方策 |
最大の目的である,電界紡糸法で作製したナノファイバ不織布を色素増感太陽電池および光蓄電池のフレキシブルな集電極として用い電荷移動特性を向上させるという点では,おおむね順調に進展している.しかし,依然としてセラミックスのナノファイバがナノ微粒子の集合体で,ナノ微粒子間の機械的・電気的結合が弱いことが透明導電ガラス基板と完全に置き換える際の最大の障害になっている.その解決の一つの方策として,グラファイト・ナノファイバ不織布を作製し,その表面を酸化チタンや酸化タングステンの薄い層でコーティングすることで,機械的強度と電気伝導性を損なわずにフレキシブルな電極を作製することができた.しかし,グラファイトは光を遮るため光吸収効率が落ちてしまう.したがって,今後は①機械的・電気的特性を損なわずに光の収率をあげる電極構造を模索する.②セラミックスナノファイバの形成時にナノ粒子間の相互結晶成長を促進させるような添加剤もしくはナノ粒子を結合させる糊となる材料を混合するなどして,不織布の機械的・電気的特性を向上させるための方策を施すことが必要である. また,近年発展が目覚ましい有機・無機ハイブリッド太陽電池の技術を取り込んだ,電解液を用いない布状フレキシブル色素増感太陽電池と光蓄電池セルの作製に向けて昨年度から準備を始めているので,最終年度となる今年度は実現にできるだけ近づきたい.
|