昨年度に顕在化した当初設計の共振デバイスの動作不良の問題に対し、機械設計のみでは解決が困難であったため、当初計画にはなかった素子の電気的特性を精密に把握することでデバイスの動作不良の改善を試みた。このため、LCRメータを必要な計測器として購入した。また共振デバイスの仕様を大幅に改良し、構造体の加工条件について試行錯誤を重ね、より確実な製作方法を策定した。テスト構造(TEG)を用いてアクチュエータの動作実験を行い、真空環境下で電圧を印加しアクチュエータが駆動することを確認した。さらに平衡点シフト用の静電マイクロプローブを設計・製作した。 一方、前年度に電子線誘起電流(EBIC)で繰返し圧縮荷重による欠陥集積が観察された単結晶シリコンの残存引張強度を評価し,疲労破壊機構について検討した。欠陥集積が確認された試験片の静的破壊強度は初期破壊強度より低下する傾向が見られたことから、圧縮疲労試験によってシリコン結晶中に再結合中心となる欠陥が発生し、本欠陥がシリコンの機械的強度と深く関連することを見出した。 さらにEBICで検出された疲労損傷集積部のTEM観察を実施した。TEMによる観察では転位等の長距離にわたる秩序だった欠陥は確認されず、繰返し圧縮荷重により蓄積された再結合欠陥は100nm以下のアトムスケールの欠陥であることが示唆された。これより、シリコンの疲労機構は圧縮による欠陥集積と引張による欠陥の急速な組織化で疲労破壊に至ると推察され、応力比を考慮したシリコンの疲労挙動の観察が今後の重要な課題となることが明確化された。
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