研究概要 |
本年度は,生体内埋め込み用駆動・発電デバイスに利用可能な生体適合圧電材料MgSiO_3(MSOと略記)多層膜構造体の創製技術の開発を目指して研究を遂行し,以下に示す主要4課題において新たな知見を得た.(1)MSOの単結晶構造体および多結晶体の誘電率・圧電特性評価のためのトリプルスケール解析を行った.本年度は,Ti,ZrおよびMo添加による混晶化による圧電特性向上の可能性を第一原理計算によって探索し,Ti添加MSO混晶が圧電応力特性を52%向上することを見出した.本年度は実験によるスパッタ成膜条件の最適化を進めたが,現在シミュレーション手法を導入することで入力電力,基板温度,ターゲット基板間距離の成膜への影響を予測できる条件探索手法の開発を進めている.(2)多層膜化の前にMEMSデバイスを目指すことから,Si基板の上にTiおよびCuの中間バッファ層を成膜し,その上にMSO(111)配向の結晶を成膜させた.入力電力を主条件因子とし高配向のMSO結晶薄膜の成長に成功した.多層膜化では,各層の成膜の間でポストアニールを行うが,温度,保持時間,温度上昇下降速度について検討を加え最良の条件を求めた.本年度は2層膜を作製し,その圧電定数d_<33>=296.9pm/Vを得た.今後安定した高配向正方晶結晶を多層にわたり創製するための界面性状と界面近傍の結晶成長の制御技術の開発を行う.(3)Si基板上にTiおよびCu中間層を成膜し,その上にMSOを成膜させることでモノモルフ型カンチレバーを作製し,15Vpp交流電圧印加により数十nmの振動を発生させることに成功した.次年度以降,本モノモルフ型駆動デバイス(アクチュエータ)を用いマイクロポンプを作製することになる.(4)本年度はモノモルフ型MSO2層膜発電デバイスの試作を行った.2層MSO膜の残留分極および自発分極はそれぞれ,1.06μC/cm^2,0.89μC/cm^2であり,本年度新たに導入したポーリング処理の効果と考える.ステンレス製カンチレバーの上部にMSO薄膜を成膜し,カンチレバーの固定端に加振機により振動を印加した結果,加速度4.5G周波数47Hzにおいて発生電圧113μVを得た.発生電圧を確認したことから,来年度以降はBio-MEMSに適用可能な電力源とするための改良と回路設計を行うことになる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目標遂行のために4課題を設定し,各課題における達成度を検討した.課題1は(1)当初の計画以上に進展している。新たに第一原理計算によりTiの置換による混晶を発見した.課題2は(2)おおむね順調に進展している。多層膜として10μm程度の膜厚を目標としているが,本年度は2層膜1-5μmを得た.課題3は(2)おおむね順調に進展している。MEMSにおけるマイクロ流路のためのマイクロポンプ創製を目指しており,今回はモノモルフ型カンチレバーによる振動発生を確認した.ポンプ創製の基礎は確立したが,設計と試作を続ける必要がある.課題4は(1)当初の計画以上に進展している。既に,計画の70%以上は達成したと考える.課題2の多層膜化の成功により目標は達成できると考える.
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今後の研究の推進方策 |
研究の推進において問題は無く基本的な変更はない.以下に,4課題の推進方策について述べる.課題1では当初の計画通り第一原理計算と均質化法を組合せたマルチスケール解析によりMSO多層膜によるアクチュエータの設計を進める.特に,圧電特性向上が期待できるTi添加によるMSO混晶の創製のために必要となる基板の材料および結晶構造設計を進めることになる.課題2は多層膜として10μm程度の膜厚を目標としていることから,RFスパッタによる多層膜創製条件探索を進めることになる.実験計画法および応答曲面法を用いた最適条件探索法を導入することで系統だった探索が可能になると考える.課題3は巨視的解析手法である有限要素法を最大限利用することでマイクロホンプ用薄膜アクチュエータの構造設計・機能予測が可能になり,実際の試作へと進むと考える.課題4は課題2の多層膜化の成功により発電能力は格段に向上するものと考える.また,要求電力が過大な場合に対応するために圧電ポリマーPVDFを用いた振動発電システムも検討中である.
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