研究課題/領域番号 |
23360060
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
藤井 透 同志社大学, 理工学部, 教授 (20156821)
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研究分担者 |
大窪 和也 同志社大学, 理工学部, 教授 (60319465)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | バイオナノ繊維 / MFC / 先端複合材料 / エポキシ樹脂 / カーボン繊維 / 疲労 / ゴム粒子 / ハイブリッド効果 |
研究概要 |
先の研究結果から、MFCの少量添加で疲労寿命が顕著に延びることが分かった。僅かな量の添加により破面様相は大きく変化し、MFCを0.3wt%添加するだけで繊維/樹脂の界面強度が向上する。しかし、MFC添加量が0.8wt%になると疲労寿命の向上は顕著でなくなる。そこで、本年度は異なる形態のMFC(エポキシ樹脂にクラフトパルプを投入、これをミル的に攪拌することによりin-situでBCNF)を分散させた母材を用い、耐久性を調べた。このBNCFでは樹脂粘度が高いこともあり、セルロースが十分解繊され、素繊化・個別化されるとともに、樹脂中での高い分散性が得られている。その結果、平織カーボン繊維布を強化材とするCFRPの耐久性は、BNCF含有率が0.5%でも増すことが分かった。 次いで、母材へのBNCFの微量混入により疲労寿命が向上するメカニズムを明らかにするため、カーボン繊維1本または繊維束をサブミクロンあるいはミクロン太さのガラス繊維を微量混入したエポキシ母材に埋没させ、繊維近傍でのき裂の成長を観察した。その結果、カーボン繊維近傍に位置するナノ繊維は、樹脂/繊維界面のき裂の発生を遅らせるとともに、一旦き裂が発生しても、その前面に横たわるナノ繊維をき裂は迂回して成長しなければならず、結果としてき裂成長速度が減じられるとともに、樹脂が繊維表面上に残るため、見かけ上、BCNFの混入により繊維/樹脂の界面強度が増したようになるとのモデルが推察された。 エポキシ母材へのBCNFの分散・混入により、CFRPの界面剥離破壊じん性値はある程度向上する。しかし、面外衝撃強度と耐久性の更なる向上のため、ハイブリッド効果を期待して、BCNFに加えナノゴム粒子をエポキシ母材に同時に混入した。その結果、適切な配合により、ナノゴム粒子/ナノ繊維の組み合わせによるCFRPの機械特性が向上することが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、木質系/バクテリア系セルロースナノ繊維(BCNF)による母材変性によりカーボン繊維/エポキシ樹脂複合材料に代表される先端複合材料の耐久性を飛躍的に高めることである。そのため、 1.ギガヘルツ耐久疲労試験が容易に行える高速髷疲労試験機の開発 2.BCNFの形態分類と高品質ナノ繊維の供給 3.BCNFを1重量%以下添加したエポキシ母材を用いたCFRPの試作と疲労特性評価 を当初の目標とした。”1”については、振動コンベヤの原理を用い、1億回以上の疲労回数を20日未満で実施可能な装置を開発した。装置はコンパクトで、50℃、湿度95%の過酷環境でも使用できる。”2”については、バクテリアセルロース系BCNFではナタデココから\30,000/kg(絶乾)で得られること、高粘度の母材樹脂にクラフトパルプを混ぜ、これをミル的撹拌することにより微細で、互いに絡み合わず独立したナノ繊維の得られることが分かった。”3”では、上記に方法を用いると2%程度、BCNFを混入させたエポキシ母材の得られることが分かった。しかし、成形法からせいぜいBCNFは0.8重量%程度しか含んだエポキシ樹脂しか実用的でないことがわかった。耐久性については、0.8%までのBCNFを分散・含有させたエポキシ/カーボン繊維複合材料の疲労特性を明らかにすることができた。この場合、高サイクル疲労寿命は10倍以上増すことも明らかにできた。加えて、エポキシ母材のBCNF変性による耐久性向上メカニズムについても、ある程度のモデルを構築できつつある。さらに、ゴム変性との併用によるハイブリッド効果についても、その可能性を示唆する実験結果を得つつある。これらを総合すると、現時点での研究達成度は当初の計画通りに進んでいると考える。
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今後の研究の推進方策 |
BCNFなど、ナノ繊維によりエポキシ母材を変性(混入・分散)すると、これを使ったCFRPの耐久性が飛躍的に増すことが分かった。BCNF変性により、見かけ上、カーボン繊維/樹脂界面の接着強度が顕著に増すメカニズムについても、ある程度のモデルを構築できた。しかし、このモデルを確定できるまでには至っていない。ナノ繊維混入という物理的改質で樹脂/繊維界面の特性向上が決定的に説明される適切な実験、加えてシミュレーションモデルの構築が重要な課題であると考えられる。これまでの研究の結果、エポキシ母材に対するBCNFの最適含有率が存在するらしいことがわかってきたが、具体的な最適含有率、その理由についても明らかにする必要性は高い。 そのため、今後はBCNFに加え、その他の、特に剛性の違うナノ繊維を用いて母材樹脂の変性を行い、その耐久性が増すかどうかについて明らかにする。 最終年度に実施を考えていたBCNF創成と母材樹脂への混合・分散については、すでにある程度のめどを得ている。しかし、バッチ式では実用的ではない。そこで、2軸混練押し出し機を用い、連続的にBCNFを創るとともに、樹脂に均一分散させる方法を確立する。この場合、高粘度のBCNF変性エポキシ樹脂が得られるが、これを有効に活用し、プリプレグなどへの展開も進める。高性能のCFRPでは、一方向に繊維が引きそろえられ、取り扱いも容易なプリプレグが実用的である。そこで、BCNF変性エポキジ母材を使ったプリプレグの製造法と、これを使ったCFRPの特性を確認する必要性も極めて高いので、これを本年度に確実に実施する。
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