研究概要 |
ダイヤモンドはSiC(炭化ケイ素)を凌駕する次世代省エネパワーデバイス材料として注目されており,高耐圧,低損失,高速動作などの性能から,究極の冷却フリー高出力デバイスとして期待されている.ダイヤモンドをデバイスとして使用するためには,その表面を無ひずみ平坦化技術によりデバイスレベルの鏡面に仕上げることが不可欠である.申請者は機械研磨に紫外光照射による光化学反応を重畳させた紫外光支援加工技術(CMPの一種)を開発している.これまでの研究により,単結晶ダイヤモンド基板を超平滑で加工ひずみやダメージのない原子スケール平坦化に成功している.本研究は2インチのダイヤモンドウェハの原子スケール平坦化に対応できる加工技術を開発し,そのための加工装置を製作すると共に,最終的に加工システムを構築することを目的としている. 本年度は本研究全体に必要とされる基礎研究を行い,紫外光支援加工の被削材除去機構を明確にし,研磨目的に合わせた研磨条件が設定できるようにするができた.これらを基に,単結晶ダイヤモンド基板の原子スケール平坦化技術を確立させた.さらに,2インチダイヤモンドウェハ用あるいは20mm角基板3枚同時研磨可能な大型研磨装置を設計,製作し,その研磨性能が初期の要求レベルを満足するものであることを確認した.研究成果をまとめると以下のようになる. 1,研磨雰囲気を酸素リッチにすることで削除率が2倍に達することを確認し,紫外光支援加工の被削材除去メカニズムに考察を加えることができた. 2.大口径ダイヤモンドウェハ用大型研磨装置の設計,製作を行い,直径350mmの石英板を組み込み,回転数300rpmの回転と試料ホールダ3000rpmの組合せによる高速紫外光支援加工装置を開発することができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究申請の段階では開発に時間を要すると覚悟していたが,本年度の研究により2インチダイヤモンドウェハ用あるいは20mm角基板3枚同時研磨可能な大型紫外光支援研磨装置を設計,製作,組立,調整することができたことを評価している.研究室内の他の研究テーマ(CVDダイヤモンド膜,4インチSiC基板)への応用研磨もでき,その研磨性能は初期の要求レベルを満足するものであることを確認できたため.
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今後の研究の推進方策 |
(1)これまでの研究により,単結晶ダイヤモンド基板(3mm角)を0.1nmRaを有する鏡面研磨に成功している.しかし,それらの結果は窒素を多く含むIb型基板により得られたものであり,今後はデバイスに使われるIIa型基板の研磨を(111)面を中心に行う.ダメージのない原子スケール全面平坦面の獲得に向けた研磨条件の検討を行う.また,加工雰囲気を酸素リッチにすると,削除率が2倍以上に向上することを見出しており,これらの検討を詳細に進める. (2)開発した大型研磨装置を用い,ダイヤモンドウェハ10mm角3枚同時研磨からスタートし,産総研などから供給される予定の1インチ基板3枚の同時研磨が行えるように研磨条件並びに装置の更なる改良を行う. (3)研磨面の表面計測は昨年度導入したZygo NewView7300による表面性状の定量化に加え,マイクロラマンスペクトル,LEED計測,断面TEM,大型放射光施設(Spring-8)による精密単結晶構造解析などの計測を行い,原子スケール平坦化の達成を示す確固とした証拠の獲得を目指す.
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